ネットで調べれば、たいていのことは数秒でわかる時代です。それでも本を読む意味はあるのか——この問いに、明治大学教授の齋藤孝氏が正面から答えた新書です(2019年・SB新書)。累計20万部を超えるベストセラーになりました。答えを先に言えば、「ある。ネットと読書では、たどり着ける“深さ”が違う」。

本書の骨格
序章+7章。「読書だけがたどり着ける“深さ”とは」から始まり、思考力・知識・人格・人生という4つの深さに向けて、それぞれの読み方を示していきます。最後は「難しい本の読み方」で締める構成。読書論でありながら、実践のコツが多いのが齋藤氏らしいところです。最後に一冊を読み切ったのは、何ヶ月前でしょうか?
心に残るところ
- 読書は著者との「対話」——情報を拾うのではなく、一人の書き手とじっくり付き合う。小説なら登場人物への感情移入が、人の気持ちの機微を感じ取る力を育てます。
- 感想を言う前提で読む——「あとで誰かに話す」つもりで読むだけで、頭への残り方が変わる。
- 好きな文章を3つ選ぶ——読み終えたら、心に残った文を3つ挙げてみる。これだけで“読みっぱなし”が減ります。
- テーマ読み——同じテーマで5冊読むと、知識が点から面になる。
月に一〜二冊読むと、語彙に差が出る
ちなみに「本を読んでも忘れてしまう」という悩みには、語彙の面からも読書の効果を裏づける研究があります。読書量と語彙力の強い相関は繰り返し確認されていて、ベネッセの調査でも、月1〜2冊読む人と読まない人では語彙力スコアに15ポイント以上の差が出ています。“深さ”は測りにくいけれど、言葉の蓄積という形では、ちゃんと残っているようです。言葉そのものへの興味が湧いたら、会話の「間」を言語学から読み解く一冊も面白く読めます。
一冊が入口になった、私の実感
「本は深さを作る」という齋藤氏の主張には、身に覚えがあります。会社に雇われず自立して生きられないかと考えていた頃、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』という一冊に出会って、「こんな生き方があるのか」と衝撃を受けました。そこから会社に頼らない生き方を少しずつ歩み始め、投資の勉強も始めて、YouTubeなどの動画でインデックス投資や配当の出る米国ETFを学びながら積み立てていきました。
ただし、順番は動かせない
順番が大事だったと思います。まず本で「考え方の幹」ができたから、動画の断片的な情報を枝葉として整理できた。いまでは、生きていくことと投資をすることは、私の中で当たり前にセットの価値観になっています。
正直に書くと、いまは月に1〜2冊です
ここまで読書の効用を書いておいて何ですが、最近の私は読むペースが落ちています。月に1〜2冊。学習や動画のインプットにかまけて、読書のほうをサボっている、というのが正確なところです。読書について書くブログをやっている人間がこれを認めるのは、あまり格好がつきません。
積読の山には、ボリュームのある本が何冊か残ったままです。ああいう本は、時間だけでなくエネルギーと覚悟がいる。読み始めるまでの助走が長くて、つい手軽なほうへ流れてしまいます。
読む場所は特に決めていませんが、だいたい家のリビングのソファです。夕飯のあとが、いちばん落ち着いて読めます。逆に言えば、その時間を確保できなかった日は一行も進みません。齋藤氏の言う「深さ」にたどり着けるかどうかは、才能ではなく、その時間を持てた回数の話なのだと、いまの自分を見ていて思います。
だから本書は、私にとって「できている人が読む本」ではありませんでした。少し離れてしまった場所を、もう一度指し示してくれる本でした。

「金魚以下の集中力」は、話半分に
齋藤氏は『読書力』をはじめ読書の本を何冊も書いているので、既刊を読んでいる人には重なる話もあります。また、本書に出てくる「現代人の集中力は8秒で金魚以下」という調査は、海外では出典が疑問視されてきた有名な話なので、そこは話半分に。それでも、「ネットを断つべき」という極端な話ではなく、「ネットは使いつつ、深く潜る時間を読書で持とう」という現実的なバランスなのは、安心して人にすすめられるところです。断つ話ではなく、潜る時間を持つ話だ。
こんな人に
スマホの時間ばかり増えて、最近ちゃんと本を読めていないな、と気になっている人。読書習慣をつくり直す“最初の一冊”を探している人に。
おわりに
本書には、デカルト『方法序説』から三島由紀夫『金閣寺』まで、次に読みたくなる本の名前がたくさん出てきます。読み終わる頃には、書店に寄りたくなっているはず。読書案内としても使える、入り口にちょうどいい一冊でした。一冊が人生の入口になることは、本当にあります。
📖 『読書する人だけがたどり着ける場所』 齊藤孝



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