大学でテニスに専念したくて、部活に入りました。ところが、入ってみると一部リーグのトップ選手ばかり。自分の練習に重きを置ける時間は、ほとんどありませんでした。上達だけを目的に考えれば、別の選択肢もあったと思います。
それでも最後まで続けました。期待していたような大きな成長は、大学時代にはできませんでした。ただ、いまもテニスに誘ってくれる仲間がいて、仕事もテニスに関係しています。あの時間を振り返ると、当初の目的とは別のものが、ずいぶん残ったと感じます。
小玉歩氏の『割に合わないことをやりなさい』(KADOKAWA、2025年)は、そんな経験を、短期の損得だけで判断し直さなくてもいいと思わせてくれる本です。副題は「コスパ・タイパ時代の『次の価値』を見つける思考法」。
効率を説いてきた著者が、寄り道を見直す
小玉氏は、かつて『クビでも年収1億円』で効率的に成果を上げる考え方を伝えてきた著者です。本書ではAIの登場を背景に、効率や最短距離だけを追うことから、信頼や人との関わりへ視点を移しています。出版社の紹介にも、その方向転換が本人の言葉で示されています。
六つの章は、効率化の次にある価値から始まり、感動資本、失敗と寄り道、逆張りの発想、深いつながり、人生の味わいへと進みます。新しい成果を早く出す方法というより、これまで成果として数えてこなかったものを見るための構成です。
私が読むときに気をつけたいのは、非効率なことをすれば、それが必ず価値になるわけではないという点です。効率そのものが悪いのでもありません。何のために時間を使い、そこにどんな人や経験が残るのか。その問いとして読むと、自分の生活へ引き寄せやすくなります。

上達できると思った。でも、期待どおりにはならなかった
テニスの部活に入ったとき、辞める選択肢がなかったわけではありません。練習に十分な時間を使えないなら、そこを離れる理由はありました。それでも、素晴らしいスキルを持つ同期や先輩と一緒に過ごすことは、大きな刺激になると思ったんです。
近くでプレーを見て、同じ環境にいれば、自分も上達するのではないか。そんな期待がありました。けれど、結果を振り返ると、大学の期間に思っていたほどの成長はできませんでした。この部分まで、後から成功した話に変えるつもりはありません。
一方、上達しなかったから何も得られなかったかというと、それも違います。続ける中で出会った人たちと、テニスそのものへの愛着が残りました。私にとっては、その両方を認めるほうが、当時の経験に近いです。
ここで考えたいこと
最初の目的を達成できなかった時間は、無駄だったのだろうか。
今でも、当時と変わらず誘ってくれる仲間がいる
今も、同期や仲間がテニスに誘ってくれます。当時と変わらず、壁をつくらずに接することのできる人がいる。そういう人たちと話し、プレーしているときに、あの部活に入ってよかったと感じます。
テニスは、私にとって生涯楽しみたいスポーツになりました。大学での競技成績や上達の速さだけでは、今こうして楽しんでいる時間の価値までは測れなかったと思います。あのとき、将来どんな付き合いが残るかまで見通せていたわけでもありません。
ここで本書の、人との深いつながりに目を向ける視点が、自分の実感と重なります。関係を手早くつくる方法を探すより、好きなことを一緒に続けた時間が、後になって支えになることがある。私の場合は、それがテニスでした。
仕事につながったのは、アパレル時代の出会い
今のテニスに関する仕事へつながった縁は、部活の仲間からの直接の紹介ではありません。アパレル企業で働いていた頃、営業の社員が、私の店へヘルプに来ることがありました。その方はテニスのファンで、海外選手にも詳しく、たまに一緒にテニスをする間柄になりました。
その後、その方がテニス関係の会社へ移りました。私が独立したときに誘ってくれたことが、今の会社で働くきっかけです。大学の部活から職場へ一直線につながったわけではなく、その後の出会いを、続けてきたテニスがつないでくれました。
もしあの学生時代がなければ、今の自分もなかったのではないかと感じます。ただ、仕事の紹介を得るために部活を続けたのではありません。好きなスポーツを続ける中で出会いがあり、後になって今の環境へつながった。その順番に、感謝しています。

続けたからといって、誰もが同じ結果になるわけではない
この経験を、苦しくても辞めずにいれば報われる、という話にはしたくありません。辞めることが自分を守る選択になる場面もありますし、続けても当初の成果が出ないことは、私自身が経験しました。
本書を実生活へ持ち帰るなら、損得だけで切り捨てていた時間を、いったん別の角度から見る。その程度の使い方が私にはしっくりきます。自分が続けたいと思える理由があるか、一緒に過ごしたい人がいるか、負担は今の生活の中で引き受けられるか。続けるかどうかは、その都度考えていいはずです。
非効率を新しい義務にしてしまうと、コスパやタイパを気にして疲れていた頃と、あまり変わりません。雑談も趣味も、将来役に立つかどうかを常に採点せずに楽しめる時間として残しておきたいと思います。
過去の経験を、二つの欄で振り返る
読み終えたら、以前「割に合わなかった」と思った経験を一つ挙げて、二つの欄に分けてみるのはどうでしょうか。私なら、こんなふうに分けられます。
- 当初、得たかったもの:私なら、テニスの上達と練習に専念する時間。
- 今、残っているもの:気兼ねなく付き合える仲間、生涯の趣味、その後の出会いへつながる共通の関心。
最初の欄を達成できていなくても、二つ目が空とは限りません。逆に、まだ何も見つからないなら、無理に良い話にする必要もありません。
『割に合わないことをやりなさい』は、自分が使ってきた時間を、成果の数字とは別の角度から振り返りたい人に手に取ってほしい一冊です。私には、今でもテニスに誘ってくれる仲間の顔が浮かびました。
📖 『割に合わないことをやりなさい』小玉歩



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