『やわらかく、考える。』は、外山滋比古氏が残した100冊を超える著作のなかから、「やわらかく考えるためのヒント」を150だけ選び出し、それぞれに短いコメントを添えた箴言集です。ベストセラー『こうやって、考える。』の姉妹本にあたります。一項目が短く、どこから開いても読める。忙しくこわばった頭を、いったんゆるめるための常備薬のような本です。
外山氏といえば、200万部を超えた『思考の整理学』で知られる人です。その根っこにある考え方が、本書では一口サイズの言葉になって並んでいます。最初から通して読む本というより、気になった一行で立ち止まり、自分の頭をほぐすために使う本です。
著者と本の立ち位置
著者の外山滋比古氏は、英文学者であり、言語学者であり、生涯にわたって文章を書き続けたエッセイストです。1923年生まれ、お茶の水女子大学の名誉教授を務め、レトリックや日本語論、思考のあり方について、100数十冊を書きました。
代表作『思考の整理学』は、刊行から20年以上たって「東大・京大で一番読まれた本」として再び火がつき、200万部を超えるロングセラーになりました。2020年、96歳で亡くなる直前まで、考えることと書くことをやめなかった人です。本書に並ぶ言葉の軽やかさの裏には、その長い時間の蓄積があります。
七つの章を、ざっと見渡す
本書は、やわらかく考えるための知恵を、七つの章に分けて並べています。まずは全体を眺めてみましょう。
- 余裕のあるアタマをつくる 詰め込みすぎた頭に、すき間をつくる
- 常識から自由になる 「当たり前」を一度うたがってみる
- わからないことは放っておく すぐ答えを出さず、寝かせる
- ひらめきを生む習慣 考えが降りてくる時間と場所を持つ
- 日本語をしなやかに使う 言葉の選び方で、思考もほぐれる
- アウトプットもやわらかく 力まずに書き、力まずに話す
- 自由自在に生きるコツ 考え方がやわらかいと、生き方もやわらかくなる

「やわらかく考える」とは、どういうことか
本書を貫いているのは、「力むほど、いい考えは逃げていく」という逆説です。外山氏は、頭に詰め込むことよりも、むしろ捨てること、忘れることを勧めます。情報をいっぱいに抱えた頭からは、新しい発想は生まれにくい。だからまず、よぶんなものを手放して、すき間をつくる。
象徴的な項目がいくつもあります。「忙しくても、昼寝をする」。「ゆっくり急ぐ」。「わからないことは放っておく」。どれも、答えを急いで取りにいくのをやめ、いったん寝かせて熟すのを待つ姿勢です。『思考の整理学』で語られた、見つめる鍋は煮えない——考えすぎず、忘れたころにアイデアが浮かぶ——という核心が、ここでも形を変えて繰り返されています。
「不幸なときは読書のチャンス」という一行も、印象に残ります。落ち込んだ時間を、別の世界へ出かける機会に変えてしまう。出来事をどう受け取るかは自分で選べる、というやわらかさが、本のあちこちに息づいています。

明日から試せる3つのこと
- 答えの出ない問題は、その場で結論を出さずに一晩寝かせる。朝のやわらかい頭で、もう一度ながめてみる。
- 忙しい日ほど、5分でいいので頭を空にする時間をつくる。昼寝でも、散歩でも、ぼんやりでもいい。
- 煮詰まったら、関係のない雑談や、あてのない散歩に出てみる。よぶんな道草が、発見のタネになる。
読むときに気をつけたいこと
箴言集なので、一つひとつの言葉は短く、背景の説明は最小限です。深く知りたい考え方に出会ったら、出典である外山氏の著作——たとえば『思考の整理学』——に進むと、ぐっと立体的になります。
また、これは即効の問題解決ドリルではありません。すぐ役立つノウハウを求めると、肩透かしを食らうかもしれない。むしろ、答えを急ぐ自分の癖そのものをゆるめてくれる本です。情報を浴び続け、すぐ答えを欲しがりがちな今こそ、「忘れる」「寝かせる」という外山氏の知恵は、かえって新しく響きます。
こんな人に効きそうか
考えれば考えるほど煮詰まってしまう人。情報を集めるほど、かえって動けなくなる人。そういう人に、肩の力を抜くきっかけをくれます。机に一冊置いて、行き詰まったときにぱらりと開くのに向いています。
逆に、体系立った思考法を一から学びたい人には、物足りないかもしれません。それを求めるなら、まず『思考の整理学』を一冊通して読むほうが近道です。
読み終えて

読み終えて残るのは、「がんばって考える」のではなく「考えが浮かぶ余白をつくる」という、発想の転換でした。やわらかい頭は、空っぽの時間からしか生まれない。忙しさのなかで忘れがちな当たり前を、外山氏は静かに思い出させてくれます。
全部を覚える必要はありません。今日ひとつ、「答えを急がない」を試してみる。それだけで、頭のなかの風通しが少し良くなります。
📖 『やわらかく、考える。』 外山滋比古



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