『「説明」がうまい人がいつも頭においていること』犬塚壮志|「うまく話す」より「相手が理解する」を目指す説明術 (2026)

『「説明」がうまい人がいつも頭においていること』犬塚壮志 表紙 学び・自己成長
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丁寧に説明したつもりなのに、相手の反応が薄い。言葉を足すほど話が長くなり、最後には「結局、何をすればいいですか」と聞かれてしまう。説明で疲れるのは、話すことそのものより、こうしたすれ違いかもしれません。

『「説明」がうまい人がいつも頭においていること』は、そのすれ違いを、相手への関心、情報の選び方、話す順番から考える本です。犬塚壮志氏は元・駿台予備学校の講師で、東京大学大学院で認知科学を学んだ著者。サンマーク出版から2026年1月に刊行されました。

説明は、相手が理解できたかを基準に組み立てる。伝える内容を選び、相手に合う順番で届ける。
※本書の主旨を筆者の言葉で整理したものです。

本書は序章で基本を押さえ、第1章で関心を持ってもらうこと、第2章でわかりやすさ、第3章で説明の順番、第4章で話している最中の工夫、第5章で場面ごとの使い方を扱います。ここでは、その流れを仕事の説明に引き寄せて考えてみます。以下の業務例は、本の事例の転載ではなく、考え方を試すために私が組み立てた例です。

話し始める前に、相手は何を知りたいのか

第1章につながる大切な問いは、「この話を聞く理由が、相手にあるか」です。話す側には重要なことでも、聞く側には自分との関係が見えないことがあります。いきなり詳しい説明を始めると、その距離が残ったまま話が進んでしまいます。

たとえば新しい売り場の提案なら、上長には判断してほしい点を、担当スタッフには作業に関わる点を先に示す。同じ資料でも、「今日は配置案を決めたいです」と「今日は変更する場所と手順を共有します」では、聞くときの構えが変わります。役職だけで決めつけず、今回は何を必要としているかを確かめたいところです。

出版社の特集では、著者が生徒の成績や志望校を踏まえて授業の内容と順序を考えるようになった経緯が紹介されています。説明する前に相手を知る。その手間も説明の一部なのだと受け取れます。[出版社の著者紹介・特集]

「全部話す」をやめるには、残す情報を決める

本書が勧める情報の選別は、ただ短くすることとは少し違います。必要な条件まで省けば、簡潔でも判断しづらい説明になります。先に「説明を聞いた後、相手に何がわかっていてほしいか」を決めると、残すものを選びやすくなります。

たとえば売り場変更なら、まず変更の目的、対象の場所、実施日を伝える。検討した案をすべて話すのは、その後でもよいかもしれません。一方、作業できない時間帯や人手の制約は、実施の判断に必要なので残す。説明を短くする作業は、相手が判断できる状態を保ちながら、今は不要な情報を後ろへ回す作業でもあります。

この考え方を補足するのが、認知負荷理論です。新しい情報を一時的に扱うワーキングメモリには限界があり、学習内容と関係の薄い負担を減らすことが重視されます。ただし、これは本書の各方法の効果を一括して証明するものではありません。説明に応用するなら、「内容の難しさに加えて、探す・覚える負担まで増やしていないか」という点検に使えます。[Swellerほか、2019年の研究レビュー]

窓辺の机の上で整然と重ねられた無地の白いカードの束と、脇によけられたもう一群

相手と自分の「わかっていること」をそろえる

第2章で扱われる前提の確認やスキーマの違いは、説明が空回りするときに振り返りたい点です。スキーマは、経験や知識からできた理解の枠組み。同じ言葉を聞いても、頭に浮かぶものが人によって違います。

「この商品を中心に展開します」と言っても、置く場所の話なのか、在庫を多く持つ話なのか、接客で優先して紹介する話なのかは、その一文だけでは決まりません。「入口の棚にまとめて置きます」と具体化したり、配置図を見せたりすると、どの意味で話しているかを確かめやすくなります。

私がコレクションの説明に絵型を添えていたのも、イメージを共有しやすくするためでした。形を言葉だけで説明し続けるより、見てもらいながら話せる。図や絵には、説明を補うだけでなく、お互いが同じものを思い浮かべているか確認する役割もあると思います。

結論から話す前に、必要な前提はあるか

第3章の順番の話は、「結論から話す」を機械的に使わないためのヒントになります。出版社の特集でも、前提が共有されていない場面や反論を伝える場面では、結論ファーストが逆効果になることがあると紹介されています。

すでに状況を知っている上長へ報告するなら、「予定どおり実施できます」から始めると早い。一方、変更自体を知らない人に「この配置に変えます」とだけ言っても、なぜ変えるのかが残ります。「入口で立ち止まる方が多く、通路が狭くなっています」と状況を共有してから案を示すほうが、判断しやすい場合があります。

背景を長々と話す必要はありません。結論を受け取るために欠かせない前提を、一つ置く。そのうえで、忙しい相手には要点を、初めて聞く相手には全体像を先に渡す。説明の順番は、自分が思いついた順番から組み替えてよいのです。

マインドマップは、話に合わせて枝を広げていた

相手が説明を追えるようにする工夫は、私の仕事の経験とも重なります。上長や部下へ説明するとき、内容をマインドマップにして図解していました。ただ、最初から完成した図を全部見せるのではなく、一つの項目から始め、話に合わせて少しずつ枝分かれする項目を展開していました。

きっかけは、人は動くものに関心を引かれると聞いたことです。そこで、話している内容と画面上で広がる項目を合わせてみました。展開するコレクションの絵型も挿入し、具体的な姿をイメージしやすくしていました。

説明が終わった後は、そのマインドマップをデータで渡しました。相手からは「わかりやすかったし、後から見返せるのでよい」と言ってもらえました。その場で聞いて終わりにならず、必要なときに戻れるものを残せたのがよかったのだと思います。

動きそのものが理解を高めたかは、この経験だけではわかりません。ただ、振り返ると、話している場所と見せている場所を合わせたこと、説明後に全体を確認できたことは、この工夫の大事な部分です。

試すなら、最初に今回のテーマを一つ表示し、説明している枝だけを開く。一区切りで質問を受け、最後に全体を見せてデータを渡す。この順番なら、マインドマップに慣れていなくても取り入れやすそうです。枝を増やす速さも、相手の反応に合わせて調整できます。

開いたノートの見開きに薄い鉛筆線で描かれた、丸と線だけの簡単な図と一本の鉛筆

話している最中と、説明が終わった後にもできること

第4章には指示語を名詞に換えることや、事実と意見を明確にすること、第5章にはプレゼンやオンラインでの説明などが登場します。準備した内容を話し切るだけではなく、その場で受け取りやすくする工夫まで扱っている点が実用的です。

たとえば「これをあちらに移してください」より、「入口の丸テーブルを、レジ横へ移してください」のほうが、後から読んでも対象を特定できます。また、「この棚は売れません」とまとめず、「今週はこの棚からの販売が2点でした。置き方も影響しているのでは、と考えています」と分ければ、事実と仮説を別々に検討できます。数字は説明のための仮の例ですが、この区別は日々の報告にも使えます。

オンラインなら、資料を一枚進めたところで相手に確認する時間を取る。説明後に渡す資料には、決まったことと検討中のことを区別して書く。私のマインドマップも、データで渡したからこそ「見返せる」という感想につながりました。話すときのわかりやすさに加え、一人で読み直すときにも意味が通るかを考えておくと、資料の作り方が変わります。

読むときは、自分の説明を一つ持ち込む

本書は心構えだけを説く本ではなく、具体的な方法も扱っています。ただし、すべての方法を一度に実践しようとすると、話す側が忙しくなってしまいます。次の会議やスタッフへの共有など、実際に控えている説明を一つ思い浮かべて読むと、使いたい箇所を選びやすいと思います。

また、相手が理解しても、必ず賛成したり動いたりするとは限りません。時間や人手が足りない、提案に納得できないという事情もあります。説明の改善と、条件の調整は分けて考えたいところです。「伝わらない」をすべて自分の話し方のせいにする必要はありません。

次に説明するときは、「相手に決めてほしいこと」「先にそろえたい前提」「後から確認できる資料」を一つずつ用意してみる。そのうえで本書を開けば、抽象的に思えた項目も、自分の説明を直すための具体的なヒントとして読めるはずです。

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