2023年に出てから、2年連続で「日本で一番売れたビジネス書」に選ばれた一冊です(2024年末時点で71万部超)。著者の安達裕哉氏は、デロイト トーマツ コンサルティングを経て、月間数百万PVのメディア「Books&Apps」を主宰している方。タイトルだけ見ると「話し方の本」に思えますが、中身はむしろその手前——口を開く前に、頭のなかで何が起きているか、を扱った本です。

本書の骨格
二部構成になっています。前半が「知性と信頼をもたらす7つの黄金法則」、後半がそれを支える「5つの思考法」——客観・整理・傾聴・質問・言語化です。抽象論ではなく、コンサル現場のやりとりを例にしながら、ひとつずつ言葉にしていきます。
心に留めておきたい章のポイント
- 頭のよさは他人が決める——どれだけ理路整然と話しても、相手が「たしかに」と感じてくれなければ届きません。評価のものさしを、いったん自分の外に置いてみる。最初の転換はここだと思います。
- とにかく反応しない——感情がのった瞬間、人は一番“頭が悪く”見えてしまう。ひと呼吸おく。話す前に「間」を持てるかどうか、という話です。
- コンサル1年目が、なぜ30年のベテラン社長に助言できるのか——知識の量ではなく、相手の話を整理して返す力なのだと気づかされます。答えるより、まず整理する。
- 論破は、勝っても負け——言い負かすほど、信頼はむしろ減っていきます。賢い人ほど、勝ちにいかないのだそうです。
- 承認欲求を扱える人が、伝える側にまわれる——認められたい気持ちを自覚して、少しだけ手放せるか。ここが最後の関門として置かれています。
私が「先に話して」失敗した日
この本のテーマは、私には少し痛いところがあります。アパレルのスーパーバイザーだった頃、大阪の店舗を畳むことになり、現地の女性スタッフに「東京へ異動できないなら退職しかない」と伝えに行ったことがありました。会社の指示で、それなりの覚悟をして臨んだのですが、説明が直接的すぎたのでしょう。カフェで切り出したところ泣かれてしまい、言葉に詰まりました。そこまで仕事に思い入れがあったのかと、その時初めて実感して、選択肢を用意してから話す、前もって会社の方針を伝えておく——先に「相手がどう受け取るか」を考えるべきだったと、今でも申し訳なく思っています。
高いかどうかを決めるのは、お客様のほうだ
接客でも、「決してお安い金額ではないですが……」と、お客様の価値観を勝手に代弁して不快にさせてしまったことがあります。高いかどうかを決めるのはお客様であって、私ではない。本書の「話す前に考える」は、私にはこの二つの失敗とセットで刺さりました。
話し手が入れ替わる一瞬に、言語学が注目している
話す前のわずかな間に何が起きているのかは、言語学の側からも探究が進んでいます。水野太貴氏の『会話の0.2秒を言語学する』は、話し手が入れ替わるその一瞬を手がかりに、会話の仕組みを解きほぐした一冊です。
今日から試せること
- 話し出す前に3秒だけ、「相手が一番聞きたい結論はどれか」を探してみる。
- 反論したくなったら、まず「つまり、こういうことですか?」と整理して返してみる。
- 会議やチャットの最後に、「要点は◯◯ですね」とひと言だけ言葉にして締める。

技術よりも、会話に入る前の態度を扱う
タイトルがキャッチーなぶん、「すぐ使えるテクニック集」を期待して開くと、少し肩透かしかもしれません。中身の多くは、技術というより“どんな姿勢で会話に入るか”という態度の話です。逆に、「あの人はどうして信頼されるんだろう」を自分の言葉にしたい人には、よく効くと思います。例がコンサルの現場に寄っているので、職種によっては少し置き換えながら読むといいかもしれません。テクニックを探しに来た人ほど、手ぶらで帰る。
こんな人に
よく喋るのに、なぜか信頼が積み上がらない気がする人。部下や後輩への伝え方に、最近ちょっと迷いがある人に。
おわりに
「うまく話す」よりも「相手のなかで腑に落ちる」を先に置く。ページをめくるほど耳が痛くなる本ですが、その痛みは、明日の会話の入り方をひとつ変えてくれる気がします。話す前のひと呼吸で救われた場面より、省いて悔いた場面のほうを、私はよく覚えています。
📖 『頭のいい人が話す前に考えていること』 安達裕哉



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