馬場康夫(ばば・やすお)は、映画監督・プロデューサー。代表作『波の数だけ抱きしめて』『私をスキーに連れてって』『彼女が水着にきがえたら』の80年代バブル期エンタメ映画3部作で知られる、日本のエンタメ業界の証言者。本書(原書1995/PHP研究所、新装版2014)は、東京ディズニーランド(1983年開園)が日本に上陸するまでの10年以上にわたる仕込みを、関係者の証言と当時の業界資料から復元したノンフィクション。エンタメ・経営・都市計画の交差点を見る貴重なドキュメント。
“10年仕込めた“プロジェクトは、強い——東京ディズニーランドは、その典型例。
本書の構成と、章ごとのポイント
第1章 1970年代の日本のエンタメ事情
- 大阪万博(1970)の成功、後楽園・宝塚など既存のテーマパークの限界。“夢を売る場所”が日本に決定的に不足していた時代。
- “世界水準のエンタメ“を日本に持ち込むという、Oriental Land(三井不動産+京成電鉄+ディズニー)の構想。
第2章 ディズニー本社との交渉
- 米国Walt Disney Companyとのライセンス交渉に5年以上。文化・契約・品質基準の壁。
- “日本独自のディズニーランド“を作る、という当時としては前例のない契約形態。
第3章 用地と建設
- 千葉県浦安市の埋立地に、夢の国を作るという挑戦。地盤・気候・台風対策——技術的な困難の連続。
- 建設中に石油ショック・円高ショックが直撃。10年以上の長期プロジェクトの宿命。
第4章 1983年4月15日 開園
- 初日来場者数2万5,000人、初年度1,000万人超。日本のエンタメ史を変えた日。
- “キャスト“(従業員)研修、品質維持、リピーター戦略——開園後の運営も含めて、ディズニー本国の方式を日本流に翻訳。
第5章 ディズニーランドが日本に与えたもの
- サービス業の“接客水準”を一段上げた。ホテル・小売・飲食すべてに波及。
- “体験を売る“という発想を、日本のビジネス界に広めた起点でもある。
世界のテーマパーク・エンタメ業界との位置づけ
本書のテーマは、世界のテーマパーク経営・エンタメ史と地続き。隣接書として『The Imagineering Field Guide to Magic Kingdom』(ディズニー社員向け)、『Be Our Guest』Disney Institute(ディズニー流接客)、『The Disney Way』Bill Capodagli(経営論)、『One Little Spark』Marty Sklar(イマジニアの回顧録)、『さらば、わが愛 ディズニーランド』堀貞一郎(東京ディズニーランド開園時のキーパーソンの自伝)。
YouTubeで「Disney Imagineering」「Oriental Land Company」と検索すると、ディズニー本社のドキュメンタリー、東京ディズニーランド開園当時の貴重映像が観られる。本書を読んだ後、これら動画に進むと、当時の熱量が立体的に蘇る。
明日からの3つの示唆
1. “10年仕込む”プロジェクトを、ひとつ持つ
本業の隣に、10年単位で育てる何かを持つ。“今すぐの成果”を求めない時間軸を確保する。
2. “体験”を売る発想を、自分の事業に持ち込む
商品・サービスを、来場前から退場後までの体験として設計する。ディズニーが日本のサービス業に教えた最大の遺産。
3. “異文化の本格輸入”を、自分の業界で考える
海外の優れたモデルを、表面的な真似ではなく、本質を翻訳して持ち込む——ディズニーランドのプロジェクトはその好例。
関連書と、読む順番
- 本書(まず日本側の物語)
- 『Be Our Guest』Disney Institute(ディズニー接客論)
- 『The Disney Way』Bill Capodagli(ディズニー経営論)
- 『One Little Spark』Marty Sklar(イマジニアの回顧録)
読むときに、気をつけたい点
本書は1995年原書(2014年新装版)で、開園後40年間の現代的なディズニー戦略(IP活用・USJ・ハリーポッター・グローバル展開)には踏み込んでいない。“開園までの仕込みのドラマ”として読むのが正解。続編的に、ディズニーの現代史も別途追いたい。
こんな人に合いそう
- エンタメ・テーマパーク・接客業に関心がある人
- “長期プロジェクト“の動かし方を学びたい経営者・PM
- 1980年代の日本経済・文化の臨場感を知りたい人
おわりに
本書を読むと、何気なく行っているテーマパークの背景に、“10年以上の人々の仕込み”があると気づく。何かを世に出す仕事をしている人にとって、勇気をもらえる一冊。長期プロジェクトに迷った時に、再読したい。



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