『センテニアルズ “100年生きる組織”が価値をつくり続ける12の習慣』アレックス・ヒル|”北極星”と”自ら壊す勇気”の両立 (2025)

『センテニアルズ "100年生きる組織"が価値をつくり続ける12の習慣』アレックス・ヒル 表紙 ビジネス・経営
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『センテニアルズ』は、100年以上にわたって輝き続けてきた、卓越した組織だけを集めて研究した本です。NASA、英国王立芸術協会、名門オックスフォード大学——分野はバラバラですが、長く価値を生み続ける組織には、共通する「12の習慣」がありました。著者のアレックス・ヒル氏が、その秘密を解き明かします。

面白いのは、長続きする組織のカギが、「変わらないこと」と「変わり続けること」の、一見矛盾する二つの両立にあった、という発見です。これは、企業や組織の話に見えて、じつは個人の生き方やキャリアにも、そのまま効いてきます。何を守り、何を壊し続けるか。長く価値を出し続けたい人すべてに、ヒントのある一冊です。

長く続く組織は、ぶれない目的(北極星)を持ちながら、同時に、成功した自分をあえて壊し続ける。
変わらない芯と、変わり続ける勇気。その両立こそが、100年の秘密だ。

著者と本の立ち位置

著者のアレックス・ヒル氏は、イギリスの経営学者です。長く繁栄してきた組織は、ふつうの会社と何が違うのか——その問いを抱え、世界中の「100年級」の組織を、長い時間をかけて訪ね歩きました。

研究の対象は、宇宙開発のNASAから、芸術団体、大学、慈善組織まで、驚くほど多彩です。業種も国もバラバラな組織を横断して、「長く価値を生み続けるための共通点」を抜き出す。だから本書の12の習慣は、特定の業界だけの話ではなく、もっと普遍的な原則として読めます。

「センテニアルズ」とは——100年続く組織の研究

センテニアルズとは、本書の造語で、「100年級の卓越した組織」を指します。多くの企業や団体が、数十年で輝きを失い、消えていきます。そのなかで、なぜ一部の組織だけが、100年を超えて、価値を生み続けられるのか。本書は、その「長く続く理由」を、習慣という具体的なレベルで描き出します。

生き延びた組織と、輝き続けた組織

ここで大事なのは、「ただ生き延びる」ことと、「価値を生み続ける」ことは違う、という点です。本書が注目するのは、長生きしているだけの組織ではなく、長いあいだ第一線で輝き続けてきた組織です。守りに入って延命するのではなく、攻め続けて生き残る。その違いが、12の習慣に表れています。

「北極星」と「自ら壊す勇気」の両立

本書の核心を、ひとことで言えば、「安定」と「変化」の両立です。著者はこれを、「北極星」と「自ら壊す勇気」という言葉で表現します。北極星とは、何があっても変えない、組織の根本的な目的のこと。これがぶれないからこそ、人々は同じ方向を向き、長く力を合わせられます。

調子がいいときほど、自分から仕組みを壊す

一方で、長く続く組織は、うまくいった成功のやり方に、決してしがみつきません。むしろ、調子がいいときほど、自分から仕組みを壊し、新しい実験を始めます。安定した芯を持ちながら、その周縁では、絶えず落ち着かない変化を起こし続ける。変わらない目的と、変わり続ける手段。この一見矛盾する二つを同時に抱えられることが、センテニアルズの最大の特徴なのです。壊す相手は、いつも自分です。

作業台の上で回る独楽。芯は静止し周縁だけが変わり続ける、北極星と自ら壊す勇気の両立のイメージ

12の習慣のエッセンス

本書は、長く続く組織の特徴を、12の習慣として整理しています。すべては紹介しきれませんが、印象に残るものをいくつか挙げてみます。

  • ぶれない目的を持つ 短期の利益ではなく、組織が何のために在るのかを見失わない
  • 異端児を抱える 主流からはみ出す変わり者を排除せず、変化の種として大切にする
  • 長い時間軸で考える 四半期ではなく、世代をまたぐ単位で物事を見る
  • 次の世代を育てる 自分たちの代だけでなく、引き継ぐ人を育てることに力を注ぐ
  • 外の世界とつながる 内に閉じこもらず、異なる分野や人と、絶えず交わり続ける

12の習慣を、自分の習慣として読む

並べてみると、どれも「組織」を「自分」に置き換えても、そのまま成り立つことに気づきます。ぶれない軸を持ち、自分のなかの異端を殺さず、長い目で考え、人とつながる。長く価値を出し続ける個人の習慣としても、十分に読めるのです。あなたの北極星は、どこにありますか。

古い壁と塗り直された新しい漆喰が斜めに接する土蔵の壁と、足場の竹が一本。土台は残して自ら更新する勇気のイメージ

続く店が、守るものと変えるもの

長く続くブランドや店には、共通点があると感じてきました。それは、伝統として絶対に守り抜く核の部分と、時代に合わせてためらいなく変えていく部分を、きれいに切り分けていることです。すべてを守れば時代に置いていかれ、すべてを変えれば「らしさ」が消える。この二つの綱引きを、長寿の組織はうまく両立させています。本書が説く「価値をつくり続ける組織」の条件を、私は老舗の現場で肌で感じていました。

セレクトショップの売り場では、長く愛されるブランドと、すぐに消えていくブランドの違いを間近で見てきました。残るブランドは、シルエットや素材といった核は頑固に守りながら、細部は毎シーズンためらいなく変えてきます。本書の「芯は守り、やり方は壊す」は、服の世界の実感とよく重なります。

明日から試せること

  • 自分にとっての「北極星」——何があっても大事にしたい目的や価値観——を、ひとつ、言葉にしてみる。
  • うまくいっているやり方を、あえてひとつ見直す。「これは、まだ最善か?」と、調子のいいときに問い直す。
  • いつもと違う分野の人や情報に、意識してひとつ触れてみる。外との接点が、変化の種になる。

まずは一つ、「守るもの」と「壊すもの」を紙に一行ずつ書き分けてみる。長さより、分けて持てたことが効きます。芯は変えず、やり方は更新し続ける。その姿勢が、長く価値を出し続ける土台になります。

NASAや名門大学の話を、自分の規模に翻訳する

本書が取り上げるのは、NASAや名門大学といった、かなり特別な組織です。そのため、事例をそのまま自分の職場や暮らしに当てはめようとすると、規模が違いすぎて、ピンとこない場面もあるかもしれません。細かい事例より、その奥にある「原則」のほうを抜き出して受け取るのが、賢い読み方です。

また、海外の組織が中心なので、文化や制度の前提が、日本とは異なる部分もあります。それでも、「変わらない芯」と「変わり続ける勇気」の両立という核心は、国や業種を超えて通じる普遍的なテーマです。日本の組織や、自分自身のキャリアに引き寄せて読むと、十分に学びがあります。

こんな人に効きそうか

組織やチームを、長く健全に続けていきたいと考えている人。あるいは、自分自身が、目先の流行に振り回されず、長く価値を出し続けたいと願っている人。そんな読者に、「続くものは何が違うのか」という長い視点が残ります。

今すぐ使える短期のノウハウが欲しい人には、向きません。これは、即効の本ではなく、長い時間に耐える「原則」を学ぶための本だからです。

読み終えて

明るい朝の古い石垣のすき間から、新緑の若芽が一本だけ伸びる。安定した芯と変化し続ける生命力の両立のイメージ

華々しい結論はありません。それでも、「長く続くものは、安定と変化のどちらかではなく、その両方を抱えている」と分かってくる——そういう本です。守るだけでも、壊すだけでも、長くは続きません。ぶれない芯を持ちながら、その芯を活かすために、やり方を壊し続ける。矛盾するようでいて、これが、時間に耐えるものの正体なのだと思います。

私自身、販売員から店長、スーパーバイザーへと役割は変わり続けましたが、「接客が好き」という芯だけは変わりませんでした。組織の話を自分のキャリアに引き寄せて読めるのは、そのおかげかもしれません。

まずは、自分の「北極星」をひとつ、言葉にしてみましょう。変えないものが決まると、安心して、変え続けることができます。その小さな整理から、長く価値を出し続ける生き方が、見えはじめます。

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