『シリコンバレー最重要思想家ナヴァル・ラヴィカント』|富と幸福を分けて考える (2022)

『シリコンバレー最重要思想家ナヴァル・ラヴィカント』エリック・ジョーゲンソン 表紙 学び・自己成長
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服を買って持ち物が増えるほど、豊かになっているはずでした。ところが実際には、管理や整理に手間がかかり、流行が変わると着る機会も減っていく。アパレル企業で働いていた頃から、たくさん持つことへの気持ちは少しずつ変わっていきました。

『シリコンバレー最重要思想家ナヴァル・ラヴィカント』は、お金を増やすことと、満足して暮らすことを、分けて考えるために読みたい本です。エリック・ジョーゲンソン氏がナヴァルの発言や対談を編み、櫻井祐子氏が翻訳した日本語版は、サンマーク出版から2022年に刊行されています。

富を築くことと、幸福を学ぶことを、それぞれ考える。将来の自由を求めながら、今の自分を満たすものも見直す。

「富」と「幸福」が、別々のまとまりになっている

ナヴァルは、起業家や投資家を結ぶAngelListの共同創業者として知られています。本書は、その人の成功を最初から順に追う伝記というより、仕事や人生についての発言を、テーマ別に読める一冊です。日本語版の紹介でも、事業家としての経験と幸福論の両方が扱われています。

原著の目次は、大きく富と幸福の二部構成です。前半では富の築き方と判断力、後半では幸福の学び方、自分自身との向き合い方、人生観へと進みます。

  • 富を築く:自分に蓄積した知識や判断を、仕事や資産へどう生かすか。
  • 判断を磨く:物事をどう見て、何を選ぶか。読書もここに関わります。
  • 幸福を考える:欲望や比較、普段の習慣と、どう付き合うか。
  • 自分の生き方を選ぶ:自分をいたわり、何を大事にして生きるか。

お金の問題が解ければ、暮らしの問題がすべて解ける。そうまとめずに読めるところが、この構成の良さだと思います。私自身、買える物が増えることと、毎日が扱いやすくなることは、必ずしも同じではありませんでした。

白い漆喰壁の二つの窓から入る性質の違う光。富と幸福は別物というイメージ

買えることと、買い続けたいことは違ってきた

ファッション企業に勤めていたときは、マーケティングに気持ちを動かされることもあれば、仕事のために自社の服を新調することもあり、出費がかさんでいました。新しいコレクションが出れば、また次の服が目に入る。持ち物は増えても、その全部を十分に着られるわけではありません。

流行の移り変わりも速く、着る機会が減った服の管理は残ります。そうした経験から、物をたくさん持つことに、少しずつ積極的ではなくなっていきました。年齢とともに、友人との食事や旅行など、経験へ気持ちが向く機会も増えていったと思います。

ナヴァルは、自身のサイトの幸福についての対話で、何かを手に入れれば、その先ずっと満たされるという期待を問い直しています。私はこれを、好きな物を持ってはいけないという意味ではなく、次の買い物に何を期待しているかを考える言葉として読みました。

いまは、素材と着こなしを楽しむ

服が嫌いになったわけではありません。以前より欲しいと思えるものがあれば、今も購入します。ただ、実用性、見た目、素材の良し悪しまで考えるようになり、買うハードルは上がりました。

ロゴや目立つデザインより、シンプルで素材の良いものに惹かれます。いわゆるクワイエットラグジュアリーに近い服も好きですが、高級ブランドであることが条件ではありません。価格がそれほど高くなくても、素材とデザインに納得できれば選びます。

アパレルの仕事をしてきて、おしゃれはブランド名だけでは決まらないと感じてきました。同じ服でも、その人の着こなしや、小さなアクセサリーの使い方で見え方は変わります。新しい服を次々に増やすより、どう着るかを楽しむ気持ちが強くなっていきました。

ここで考えたいこと

欲しい物を我慢して減らすのと、満足できる物を選ぶのは、同じだろうか。

私の場合、買わないこと自体を目標にしたわけではありません。欲しいと感じる基準が変わった結果、必要以上に増えなくなった、という順番でした。本の欲望の話も、自分が何に満足しているかを確かめながら読むと、生活に近づいてきます。

丸太を支点に渡された木の棒。小さな力を大きく効かせるレバレッジのイメージ

減ったのは、出費だけでなく管理の時間

持ち物が必要以上に増えなくなると、部屋の管理が少しずつ楽になりました。掃除や整理にかける時間が減り、思考もクリアになってきたと感じます。物の管理に気を取られる時間が減ったことも、関係していたのかもしれません。

空いた時間は、読書や株式投資の勉強など、自己投資へ回すようになりました。時間は命だから、できるだけ有効に使いたい。今の社会で自由な選択肢を増やすには、お金も必要だと考え、株式を学び、積み立てて買うことにも取り組んできました。

世界の発展に参加するような気持ちで投資を考えていますが、経済の発展がすべての株価の上昇を約束するわけではありません。ここで紹介したいのは投資の成功法則ではなく、お金を使う先と、学ぶ時間の使い方が変わったという経験です。

本を読むことも、物事を見る角度や、暮らしの選択肢を増やすために続けています。買い物を控えた分だけ幸福が増えた、と単純に数えることはできません。ただ、持ち物の世話に使っていた時間を、自分が学びたいことへ使えるようになったのは、うれしい変化でした。

富を求めることまで、やめなくていい

ナヴァルが富・お金・地位を分けて語る対話では、富は、自分がその場で働いていないときにも価値を生む資産として説明されています。誰かより上に見られることや、単に金額を見せることとは、狙いを分けています。

この区別を日常へ引き寄せるなら、何のためにお金が必要なのかを考えることだと思います。私なら、物を際限なく増やすためというより、将来の選択肢を増やすため。その目的を考え直すと、支出も学び方も選びやすくなります。

本書に出てくる、自分に固有の知識や、仕事の成果を広く届ける仕組みという話も、収入を増やすための考え方です。ただし、投資家や起業家の経験を、自分の仕事へそのまま移せるわけではありません。資金や生活の条件を踏まえ、自分に使える部分を選ぶ必要があります。

海外の対談も、成功談より迷いの部分を読む

原著は公式サイトでも公開され、発言をテーマごとに読むことができます。日本語版で気になった考えを、原文の文脈へ戻って確かめられるのは、この本の特徴です。

また、The Tim Ferriss Showでの本人の対談では、幸福について、自分の反応や欲望を観察してきた経験を話しています。その工夫には個人的なものが多いとも述べています。短い言葉だけを抜き出すより、本人も試しながら考えていることが伝わってきます。

ナヴァル自身の幸福についての対話も、数学のように一つの定義へ固定できる話ではないと前置きしています。だから私も、一文を人生の正解にするより、買い物や時間の使い方を振り返るための問いとして読みたいと思います。

開け放たれた木の引き戸の先に広がる明るい庭。内と外の境目にある静けさのイメージ

次の買い物を、その後の時間まで含めて考える

本書から日常へ持ち帰るなら、次に欲しいものが見つかったとき、その値段だけでなく、使う機会や管理の手間も一緒に考えてみる。手持ちのものを使う楽しみと比べて、それでも欲しいかを確かめてみる。そんな読み方を提案したいです。

お金を増やす方法を知りたい人にも、買えるようになったのに落ち着かない人にも、『ナヴァル・ラヴィカント』は別々の入口を用意しています。私には、服を選び直した先に、学ぶ時間が増えたという経験とつながる一冊でした。

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