『投資信託はこの9本から選びなさい』中野晴啓|選択肢を減らすのも投資の知性 (2013)

『最新版 投資信託はこの9本から選びなさい』中野晴啓 表紙 お金・投資
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投資信託は、世の中に星の数ほどあります。本書が調べた時点で、その数およそ3376本。これだけあると、初心者はもう「どれを選べばいいのか」で立ち止まってしまいます。そこに、著者の中野晴啓氏は、明確な条件を持ち込みます。資産形成に本当に向く投信の条件を決め、3376本をふるいにかけると——残ったのは、たった9本でした。3376本を前にして、あなたなら最初に何を切り捨てますか?

本書のいいところは、「もうかる銘柄」を当てにいく本ではない、という点です。語られるのは、低コストで、世界に分散され、こつこつ自動で積み立てられる——そんな地味で堅実な投信を、長く持ち続けるという王道です。選択肢が多すぎて動けない人に、「ここまで絞っていいんだ」という安心を手渡してくれます。

私もつみたてNISAで投資信託を積み立てています。選んだときに効いたのは、まさにこの「絞ってもらえる安心」でした。何百本も比較する時間はないので、コストが低いか、長く続けられるか——その条件だけで数本まで絞り込みました。

いい投資は、たくさんの中から正解を探し当てることではない。
条件を決めて、選択肢を捨てる。残った数本を、低コストで長く積み立てるだけでいい。

著者と本の立ち位置

著者の中野晴啓氏は、長期投資を専門とする運用会社、セゾン投信を立ち上げた人物です。世界的な低コスト運用で知られる米バンガードと提携し、コツコツ積み立てる長期投資を、日本に広めてきました。

だから本書には、業界の裏側を知る人ならではの、率直さがあります。金融機関がすすめたがる投信の問題点にも、遠慮なく踏み込む。「売り手の都合」と「買い手の利益」は必ずしも一致しない——その視点に立って、個人にとって本当に得な選び方を示してくれます。

「選べない」を、条件で解く

本書の背骨は、「いい投信を探す」のではなく、「条件を決めて、ダメな投信を外していく」という発想です。中野氏が挙げる条件は、たとえば、手数料(コスト)が低いこと。世界に幅広く分散されていること。毎月こつこつ自動で積み立てられること。そして、運用期間に期限がないこと。

「毎月分配型」は、なぜ外れるのか

逆に、避けるべき投信もはっきりしています。買うだけで高い手数料がかかるもの。一見うれしそうに見えて、じつは元本を取り崩していることもある「毎月分配型」。テーマやブームに乗っただけで、長く持つのに向かないもの。条件というふるいを通すだけで、膨大な選択肢が、自然と一握りに絞られていきます。探す前に、捨てる。

木の台の上で砂をふるい落とす古い金網のふるい。条件でふるいにかけて捨てるイメージ

王道は「長期・積立・分散」

絞り込んだ先に残るのが、「長期・積立・分散」という、投資の王道です。世界中に分散した投信を、毎月決まった額で、長い時間をかけて買い続ける。値段が高いときは少なく、安いときは多く買うことになり、平均の買値がならされていきます。

複利が効いてくるのは、後半になってから

そして、時間が利益を生む「複利」の効果が、後半になるほど効いてくる。本書のサブタイトルには、「積立だけで3000万円」とあります。もちろん相場次第で結果は変わりますが、派手な才能ではなく、地味な継続が資産をつくるという考え方は、いまの「つみたて投資」の常識とも、きれいに重なります。

重ねた和紙の束を横から見た層の縞。薄いものが積み重なるイメージ

明日から試せる3つのこと

  • 持っている、または気になる投信の「信託報酬(手数料)」を調べる。長期では、この差がじわじわ効いてくる。
  • 「毎月分配型」など、仕組みが複雑で手数料の高いものは、いったん候補から外す。
  • 世界に分散した低コストの投信をひとつ選び、無理のない金額で自動積立を設定する。

大事なのは、一度仕組みをつくったら、あとは放っておくこと。こまめにいじらないほうが、たいていうまくいきます。

ETFの分配金にも惹かれた時期がありますが、伸び率を比べて、積み立ての投資信託を選びました。「自動で続く仕組み」に任せてからは、相場を気にする時間そのものが減っています。

「9本」の中身より、選ぶ条件のほうを

注意したいのは、本書が紹介する「9本」という具体的なリストは、刊行された時点のものだということです。その後、より低コストで優れた投信も登場しています。だから、9本そのものを鵜呑みにするより、「どんな条件で選ぶか」という考え方のほうを受け取るのが、賢い読み方です。

著者は、この商品の売り手でもある

また、著者は長期投資の運用会社を経営する立場でもあります。その分、自社の方針に近い主張になるのは自然なこと。語られる原則は王道で信頼できますが、最後は複数の情報源と照らし合わせ、自分で判断する——その姿勢だけは、忘れずにいたいところです。

こんな人に効きそうか

投資を始めたいけれど、商品が多すぎて、最初の一歩で固まってしまっている人。何が良くて何が危ないのか、選ぶ基準そのものを知りたい人。そういう人に、迷いを断ち切るシンプルなものさしをくれます。

すでに投資方針が固まっている人や、個別株で攻めたい人には、この本は不要かもしれません。まだ一本目を選べずにいる人が、最初に開く本です。これは、攻めの本ではなく、土台を堅く固めるための入門書だからです。

読み終えて

白い漆喰壁に葉の影を落とす細い若木。時間をかけて育つイメージ

私はこの本を読んで、まず投信の候補リストを思いきり削りました。選択肢を減らすこと自体が、ひとつの知性なのだと思います。情報も商品もあふれる時代、たくさんの中から最適を探し続けるのは、しんどいうえに、たいてい長続きしません。条件を決めて、思いきって捨てる。残ったものを、長く大事に持つ。

これは服選びにも通じる感覚です。売り場で長く服を扱ってきた実感でいえば、クローゼットも投資も、数を絞って気に入ったものを長く持つ人がいちばん満足そうでした。

この「絞って、続ける」という構えは、投資に限らず、時間やものとの付き合い方にも効いてきます。まずは手数料をひとつ調べてみる。その小さな一歩から、お金との付き合いが、少し落ち着いていきます。

📖 『投資信託はこの9本から選びなさい』 中野晴啓

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