『マネジメント【エッセンシャル版】基本と原則』P.F.ドラッカー|「エッセンシャル版とは」に答える要点整理 (2001)

『マネジメント[エッセンシャル版]』P.F.ドラッカー 表紙 ビジネス・経営
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エッセンシャル版とは、ドラッカー氏が1974年に書いた大著『マネジメント 課題、責任、実践』——日本語版は上中下の三分冊で、上巻だけで452ページ——から要点を選び直し、320ページ一冊にまとめた入門編のことです。短くした本というより、どこを残すかを決めた本になります。

半世紀以上にわたって読み継がれてきた経営の古典で、著者のP.F.ドラッカー氏は「マネジメントの父」とも呼ばれる思想家です。マネジメントとは何か、組織はどうすれば成果をあげられるのか——その「基本と原則」が、静かな筆致で語られます。

マネジメントというと、管理職だけの話に聞こえるかもしれません。けれど本書が扱うのは、もっと広い話です。企業だけでなく、学校も、病院も——人が集まって何かを成し遂げる、あらゆる組織に共通する原理。さらに言えば、自分の仕事をどう成果につなげるか、という、働く一人ひとりの問題でもあります。だから、肩書きに関係なく、誰が読んでも、自分の仕事に引き寄せて学べます。管理職ではないから自分には関係ない、と思っていませんか?

組織の成果は、内部ではなく、つねに外——顧客と社会の側にある。
マネジメントとは、人の強みを生かし、組織を社会への貢献へ向ける営みだ。

エッセンシャル版とは何か——原著との違い

「エッセンシャル版とは何だろう」と気になって手に取る方は多いと思います。先に整理しておきます。

原著は上中下の三分冊、上巻だけで452ページ

もとになっているのは『マネジメント 課題、責任、実践』です。ドラッカー氏が1974年に自身の経営論を体系化した大著で、日本語版は上中下の三分冊になっています。上巻だけで452ページという分量です。

本書『マネジメント【エッセンシャル版】基本と原則』は、その三分冊から要点を抜き出して一冊にまとめたものです。2001年12月にダイヤモンド社から刊行され、ページ数は320ページ。版元の公式サイトでも「大著『マネジメント』上中下巻を、ダイジェストした入門編」と位置づけられています。

「訳」と「編訳」——上田惇生氏の関わり方が違う

見落とされがちなのが、上田惇生氏の関わり方の違いです。原著の三分冊では「訳」、エッセンシャル版では「編訳」と記されています。単に短くしたのではなく、どこを残すかを選び、順序を組み直した一冊だということです。

原著とエッセンシャル版、どちらから読むか

では、どちらから読むべきか。ドラッカー氏を初めて読むのであれば、エッセンシャル版からで十分だと思います。版元自身が入門編と位置づけていますし、320ページでも中身は決して薄くありません。原著にあたるのは、エッセンシャル版を読んで「この章をもっと詳しく知りたい」と感じてからで遅くないはずです。逆に、特定の論点を仕事で深く追う必要がある方は、最初から三分冊を選ぶ意味があります。迷ったら、薄いほうからで大丈夫です。

この本が「経営書として初のミリオンセラー」になった経緯も、エッセンシャル版を検索する人には関係があると思うので書いておきます。2001年の刊行から8年間の累計は約10万部でした。2009年12月に岩崎夏海氏の『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』が出て、主人公が読む本がこのエッセンシャル版だったことから、そこから2年で90万部が上乗せされ、2011年8月に100万部に達しています(ダイヤモンド・オンライン 2011年8月5日)。つまり、いま書店に並んでいる版の読者の9割は、『もしドラ』経由でこの本に来た人たちです。入門編として設計された本が、入門者に届いた、珍しい例だと思います。

著者と本の立ち位置

著者のP.F.ドラッカー氏は、20世紀後半の社会と経営を、誰よりも早く見通した思想家です。「これからは知識が、いちばんの資源になる」「企業の目的は、利益ではなく顧客の創造だ」——いまでは当たり前に語られる多くの考え方を、ドラッカー氏は、何十年も前に示していました。

本書は、その膨大な思想のエッセンスを、コンパクトにまとめた一冊です。語り口は、ノウハウ集のように具体的ではなく、むしろ「考え方の軸」を与えるもの。だからこそ、時代や業種が変わっても古びず、読むたびに、自分のいまの状況に合わせて、新しい発見があります。

本書の構成——3部45節、どこから読むか

全体は3部・45節に分かれています。「基本と原則」という副題どおり、手順ではなく問いが並ぶ構成です。

扱うこと主な節この記事で触れる箇所
Part 1 マネジメントの使命企業・公的機関の成果、仕事と人間、社会的責任2 企業とは何か/4 事業の目標/14「人は最大の資産である」/19 知りながら害をなすな顧客の創造、強みを生かす
Part 2 マネジメントの方法マネジャーの仕事、技能、組織22 マネジャーの仕事/24 自己管理による目標管理/26 組織の精神真摯さ
Part 3 マネジメントの戦略トップマネジメント、規模・多角化・成長36 ドイツ銀行物語/43 成長のマネジメント/44 イノベーション

初めて読むなら、Part 1の第1章(企業の成果)とPart 2の第5章(マネジャー)だけで、本書の骨格はつかめます。Part 3は経営者向けなので、後回しで構いません。「日本の読者へ」でドラッカー氏自身が挙げている3点——マネジメントには基本と原則がある、それは国や文化に応じて適用しなければならない、基本と原則に反するものは例外なく破綻する——が、全体の前提です。

マネジメントの役割——「顧客の創造」と三つの使命

本書の根っこにあるのが、「事業の目的は、顧客の創造である」という、有名な一文です。利益は、事業を続けるための条件ではあっても、目的ではない。会社が存在する本当の理由は、「価値を求めてくれる顧客を、生み出し続けること」にある——ドラッカー氏は、そう言い切ります。

三つの役割は、どれも視線が外を向いている

そして、マネジメントには、三つの役割があるとされます。第一に、その組織に固有の使命を果たすこと。第二に、そこで働く人を生かし、活躍させること。第三に、社会の問題の解決に貢献すること。共通するのは、視線がつねに「外」を向いていることです。成果は、組織の内部ではなく、顧客や社会の側にある。だから、社内の都合や効率だけを見ていては、本当の成果は生まれないのです。

店長時代、「顧客の創造」を売り場で実感したのは、接客が商品の話から離れたときでした。売り物の説明を重ねているうちは、関係はその一回で終わる。ご家族や趣味の話が普通にできる関係になると、こちらの提案をまとめて受け取ってもらえるようになり、次も来てくださる。売り込むのではなく、関係を作る。顧客を創造するというのは、案外そういう地味な積み重ねでした。

アパレル店の木のカウンターで、たたんだニットとリネンを前に話し込む店員とお客様の手元、真鍮のトレイに置かれた二客のカップ — 売り込まずに関係を作る接客のイメージ

顧客の創造という言葉が、実際の事業ではどんな形をとるのか。日本の実話でそれを追える一冊が、馬場康夫氏の『「エンタメ」の夜明け ディズニーランドが日本に来た日』です。市場そのものがまだ存在しなかった時代に、東京ディズニーランドという場所を立ち上げた人たちの記録になっています。

人の「強み」を生かす——そして「真摯さ」

もうひとつ、本書が大切にするのが、「人の強みを生かす」という原則です。マネジメントの役目は、人の弱みをあげつらって直させることではなく、一人ひとりの強みを見つけ、それが成果につながるように、仕事を組み立てること。弱みではなく、強みに焦点を当てる——この視点の転換が、組織にも、個人にも、力を与えます。隣で働く人の強みを、あなたは三つ挙げられますか?

そして、ドラッカー氏が、マネジャーに求められる「唯一の絶対的な資質」として挙げるのが、「真摯さ」です。頭の良さでも、話のうまさでもなく、人として誠実であること。才能は学べても、真摯さは、後から取り繕えない。人を率いる立場にある人ほど、この一点が問われる——半世紀前の指摘が、いまも、いやむしろ今こそ、重く響きます。

真摯さに欠ける人の、5つの条件

「真摯さ」は抽象的に聞こえますが、本書はその欠如を5つの行動で具体化しています(第5章、p.147〜148)。強みより弱みに目を向ける人。何が正しいかより、誰が正しいかに関心を持つ人。真摯さより頭のよさを重視する人。部下に脅威を感じる人。自分の仕事に高い基準を設定しない人。この5つのうち一つでも当てはまるなら、どれだけ知識があっても組織を破壊する、と本書は言い切ります。

原語は integrity で、上田惇生氏がこれを「真摯さ」と訳しました。「誠実」でも「高潔」でもなく「真摯」を選んだところに、この訳書の性格が出ています。

5つを自分に当てはめると、「誰が正しいか」で判断していた時期が、確かにありました。

午後の斜光が差す木の作業台に、大きさの違う銑が並び、それぞれ違う角度で光を受けている。人の強みを生かすイメージ

強みで配置される側に、なった日

「人の強みを生かして配置する」を、配置される側から見た経験があります。

8店舗を担当するスーパーバイザーをやっていた会社で、あるとき、店長として店舗に戻るよう指示がありました。理由は「安定的に店頭で売れる人、部下を管理できる人を置きたい」。ドラッカー氏の原則そのものです。会社は私の強みをそう見ていた。

雇用関係である以上、歯向かうことはできないと思っていました。だから指示を前向きに受け止めて、受け入れる努力をした。ただ、その先で、同じ組織で長く働くことが自分の人生の中でもったいない、と思うようになります。もっと幅広く、奥深い知識を身につけて、懐の深い人間になりたかった。店長に戻って1年半ほどで、会社を出ました。

本書の原則は正しかったと思います。会社が見た強みは、たぶん本当に私の強みだった。ただ、強みで配置されることと、その場所にいたいことは、別でした。本書はマネジメントする側に向けて書かれているので、配置された人がどう感じるかは、あまり書かれていません。そこは読む人が自分で足す部分だと思います。

信じて任せると、人は勝手に伸びる

一方で、自分が配置する側だった時期には、「強みを活かす」を任せ方で実感していました。管理職の仕事は、細かく指示して縛ることではなく、その人の強みが出る場所に置いて、あとは信じて待つこと。

手放し方を本気で考えたのは、8店舗を担当するスーパーバイザーになってからです。店長のときは、自分で動いたほうが早かった。ところが見る店が8つになると、同じやり方では単純に手が足りません。そこで、イベントの企画や、新しいオペレーションの導入、集客を促すための施策といった、以前なら自分で決めていた領域を、意識して任せるようにしました。

ただ、任せることと丸投げは違います。自分の中にもそれなりの答えや施策を持ったうえで、まずは相手のやり方でやらせてみる。出てきたものとすり合わせながら進めるから、任された側も納得して動けますし、こちらへの信頼も損なわれません。何も持たないまま「よろしく」とだけ言うのが、いちばん信頼を失うやり方でした。

人は、強みで使われたときに、いちばん伸びます。

自分の仕事に活かすには

  • 自分の仕事の成果が、「最終的に、組織の外の誰の役に立っているか」を、一度たどってみる。視線を、内から外へ向ける。
  • 自分や、一緒に働く人の「強み」を、ひとつ書き出してみる。その強みを、もっと生かせる仕事の組み方を考える。
  • 「自分(たち)の仕事は、そもそも何のためにあるのか」を、改めて問い直してみる。目的が定まると、やるべきことが見えてくる。

経営者でない人ほど、ドラッカー氏の言葉を「自分には関係ない話」として遠ざけないこと。一つひとつを、自分の仕事に置き換えて問い直すと、抽象的な原則が、急に実用的な指針に変わります。

一度で終わらせず、折にふれて読み返す本

一つ注意したいのは、本書が、すぐ使えるノウハウ集ではない、という点です。語られるのは、具体的な手順ではなく、考え方の「原則」です。一度読んで終わりにするより、折にふれて読み返し、そのときどきの自分の課題に当てはめて考える——そういう、長く付き合う本として向き合うのが、いちばん効きます。

読者の感想を見ていると、「エッセンス版なのでかえって難しい」「映画の早送りであらすじを見ているよう」という声が一定数あります。要点だけを残した本は、要点に至るまでの事例が削られているので、マネジメントの経験がない人には、原則が原則のまま宙に浮く。「じゃあどうすればいいのか」への答えは、本書には書かれていません。それは欠点ではなく、本書が「結論を出すためではなく、問題を提起するためのもの」だとドラッカー氏自身が位置づけているからです。答えを探す本ではなく、問いを持ち帰る本として読むのが合っています。

また、「エッセンシャル版」は、要点を凝縮したものなので、一つひとつのテーマは、深く掘り下げられているわけではありません。心に引っかかる項目に出会ったら、より詳しい原典や、関連する本に進むと、理解がぐっと立体的になります。本書は、その入り口として、最適な地図のような一冊です。

こんな人に効きそうか

チームや組織を率いる立場になって、「マネジメントとは、結局何をすることなのか」を、根本から学び直したい人。あるいは、自分の仕事を、もっと意味のある成果につなげたいと考えている、働くすべての人。そういう人に、ぶれない「軸」を手渡してくれます。

明日すぐ使えるテクニックだけが欲しいなら、先に薄い実務書を一冊。そのうえで本書に戻ると、効いてきます。これは、手早い解決策の本ではなく、長く効く「原理原則」を、自分のなかに据えるための本だからです。

読み終えて

夕方の光の中、バルコニーの石の手すりに本が一冊置かれ、その先に丘と林の遠景が淡く広がる。視線を内から外へ向けるイメージ

本書を貫くのは、「成果は、いつも自分の外にある」という一行です。読み終えて、ここだけが濃く残りました。私たちはつい、社内の評価や、目の前の効率に、目を奪われがちです。けれど、本当に大事なのは、その仕事が、外の誰かに、どんな価値を届けているか。視線を外へ向け直すだけで、日々の仕事の意味が、少し変わって見えてきます。

まずは、自分の仕事が「外の誰の役に立っているか」を、一度たどってみる。その小さな問いから、ドラッカー氏の言う「成果をあげるマネジメント」が、自分の足元から始まります。

📖 『マネジメント【エッセンシャル版】基本と原則』 P.F.ドラッカー

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