NLP(神経言語プログラミング)の実践書として、1989年から海外のセラピストやコーチに読み継がれてきた一冊です。著者のコニリー・アンドレアス氏とスティーブ・アンドレアス氏は夫妻で、NLPを世に広めた第二世代の書き手。よく誤解されるのですが、NLPそのものを生み出したのはリチャード・バンドラー氏とジョン・グリンダー氏で、アンドレアス夫妻は彼らのセミナーを本にまとめ、自分たちの手法も加えていった編集者・実践家です。日本語訳は今のところ出ていないので、読むなら英語の原書になります。

どんな本か
全21章。各章が「あがり症」「トラウマ」「悲嘆」「恐怖症」「アレルギー」「子育て」など、ひとつの悩みに対応したケーススタディになっています。ある人が自分の内側のイメージや対話を組み替えて変わっていく——その過程を追いながら、使われた技法を順を追って説明していく作りです。理論書というより、症状別の実用ハンドブックに近いかもしれません。読む順番は、いま困っている章から決めればいい。
心に残るところ
- 恐怖症へのアプローチ——こわい記憶を「遠く・小さく・自分でコントロールできる映像」に置き換えていく、いわゆる“fast phobia cure”を平易に紹介しています。
- 悲嘆(グリーフ)のプロセス——大切な人を失った記憶との向き合い方を扱います。これはコニリー氏が独自に開発したものだそうです。
- タイムライン——「時間」を頭のなかでどう並べているかに注目し、そこへ働きかけていく手法。
- 共通する発想——一貫しているのは、頭のなかの「見え方」と「内なる対話」を少し組み替える、という考え方。映像の距離や大きさを変えるだけで、感じ方が変わる、というわけです。
NLPは、学術的に確立された手法ではない
ひとつ正直に添えておきます。NLPは学術的には「効果が確立されていない」「疑似科学」と見なされることが多い分野です。本書のアレルギー除去や恐怖症治療といった話も、対照実験で裏づけられたものではありません。治療の代わりにはならないので、あくまで「心の持ちようを試すセルフヘルプ」として、期待しすぎずに読むのがちょうどいいと思います。それでも、頭のなかのイメージを意識して扱ってみる、という視点そのものには、日常でもふと使える場面がある気がします。
打つ前に、うまくいく自分を思い描く
心の中のイメージが行動を変える、という本書のNLP的な考え方は、私にはテニスの場面でしっくりきます。試合の前、私はまず調子が良かった頃の自分の動きを思い起こすようにしています。そして「今日は硬くなるかもしれない」と予想できるときほど、最初の一球を思い切り打つと決めておく。序盤に思い切ったプレーをしておくと、不思議と後半は気持ちが楽になって、体も動くんです。
頭の中の一枚が、当日の体を変える
頭の中の一枚の映像を先に用意しておくだけで、現実のパフォーマンスが変わる。これは試合だけでなく、接客前の心の準備にも通じる感覚です。あなたは、頭のなかの映像を意識して選んだことがありますか?
まぎらわしい点
混同されやすいのですが、コニリー氏の代表作『コア・トランスフォーメーション』は妹のタマラとの別の本(1994年)です。また、日本で読める春秋社『こころを変えるNLP』は、夫妻の“別の本”(Change Your Mind—And Keep the Change)の翻訳で、本書『Heart of the Mind』の邦訳ではありません。「アンドレアス夫妻の本の邦訳=これ」と早合点しないほうが安全です。

こんな人に
NLPの入り口を、要約ではなく原典に近いかたちで知りたい人。心理系のセルフワークに、半信半疑くらいの距離感で触れてみたい人に向いています。
おわりに
効果を保証する本ではありません。それでも、「つらい記憶や感情も、頭のなかの“置き場所”を変えれば少し軽くなるかもしれない」という発想は、読み物としても面白いものでした。英語の原書というハードルはありますが、そのぶん、要約では消えてしまうオリジナルの手触りが残っています。
📖 『Heart of the Mind: Engaging Your Inner Power to Change with Neuro-Linguistic Programming』 Connirae Andreas, Steve Andreas



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