『新訳 ハイパワー・マーケティング』ジェイ・エイブラハム|ビジネスを伸ばす道は、実はたった3つ──いまや手に入りにくい名著の核心 (2017)

『新訳 ハイパワー・マーケティング』ジェイ・エイブラハム 表紙 マーケティング
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『新訳 ハイパワー・マーケティング』は、「ビジネスを伸ばす道は、実はたった3つしかない」と言い切る本です。著者のジェイ・エイブラハム氏は、世界的に知られるマーケティングコンサルタント。数多くの企業の売上を、劇的に伸ばしてきた人物です。語られる原理は、聞けば「当たり前だ」と思うほどシンプル。けれど、その3つを「全部」やれている人は、驚くほど少ないのです。三つのうち、いま手をつけているのはいくつですか?

マーケティングというと、次々と現れる新しい手法を、追いかけ続けるイメージがあるかもしれません。けれど本書は、その対極にあります。流行に左右されない、ビジネスの「数式」のような原理を、たった3つに絞って示す。だから、どんな業種でも、どんな時代でも、自分の商売に当てはめて考えられます。

売上を伸ばす方法は、たった3つしかない。
顧客を増やす。一回あたりの単価を上げる。買う頻度を増やす。あとは、その掛け算だ。

著者と本の立ち位置

著者のジェイ・エイブラハム氏は、マーケティングの世界で、伝説的とされるコンサルタントです。派手な新手法ではなく、「ビジネスの仕組みそのもの」に注目し、その原理を使って、多くの会社の売上を、何倍にも伸ばしてきました。

本書の魅力は、その思考の「土台」を、惜しみなく教えてくれるところです。テクニックは時代とともに変わりますが、本書が扱うのは、もっと深い原理。だから、刊行から時間がたっても古びず、いまも「入手しにくい名著」として、読み継がれてきました。新訳版で、その核心に、改めて触れられます。

「伸ばす道は3つだけ」——掛け算の発想

本書の中心にあるのが、「ビジネスを伸ばす方法は、3つしかない」という、有名な原理です。一つめは、顧客の数を増やすこと。二つめは、顧客一人あたりの、一回の購入額(単価)を上げること。三つめは、顧客が買ってくれる頻度を、増やすこと。売上は、結局、この3つの掛け算で決まります。

1割ずつの改善が、掛け算で跳ね上がる

この発想の何がすごいかというと、それぞれをほんの少し改善するだけで、全体が大きく伸びる、という点です。たとえば、3つをそれぞれ1割ずつ良くすれば、掛け算なので、売上は1割増どころではなく、もっと大きく跳ね上がります。ところが、多くの人は、一つめの「新しい顧客を集めること」ばかりに必死になり、残りの二つを、まるごと放置している。すでにいる顧客に、もう少し買ってもらう、もう少し頻繁に来てもらう——その伸びしろに、本書は目を開かせてくれます。

麦畑を通る三本の用水路が合流して一本の広い流れになる。顧客数×単価×頻度の掛け算のイメージ

「卓越の戦略」と、顧客のリスクを引き受ける

もう一つ、本書が大切にするのが、「卓越の戦略」と呼ばれる、商売の根本姿勢です。それは、目先の売上のために売り込むのではなく、「顧客にとっての最善は何か」を、誰よりも本気で考え、その立場に立ち続けること。お客の利益を心から願う売り手に、人は自然と引き寄せられる、という考え方です。

返金保証——買い手の不安を、売り手が背負う

その具体的なあらわれが、「買い手のリスクを、売り手が引き受ける」という発想です。たとえば、満足できなければ返金する、という保証。これによって、お客は「損をするかも」という不安なく、安心して一歩を踏み出せます。リスクを相手に負わせるのではなく、自分が引き受ける。一見、損に見えるこの姿勢が、結果として、深い信頼と大きな売上を呼び込むのです。では、あなたのお客が最後まで消せずにいる不安は、何でしょうか?

明るい光の入る木のカウンターに、麻紐で丁寧に結ばれた和紙の包みがひとつ。相手の最善を第一に考える卓越の戦略のイメージ

クレームを、いちばんの顧客に変えた

「売る」より「相手の利益を優先する」ほうが結局は売上になる——本書の逆説を、私は身をもって知っています。あるとき、お客様が持ち込まれたコートの直しが、半分クレームのような状態で始まったことがありました。それでも損得を脇に置いて、とにかく真摯に向き合い続けた。

すると、こじれかけていた関係が少しずつ信頼に変わり、その方は定期的に足を運んでくださる上顧客になったんです。目先の一着より、目の前の人の困りごと。順番を間違えなければ、売上はあとからついてきます。

明日から試せること

  • 自分の売上(や成果)を、「顧客の数 × 一回の単価 × 買う頻度」に分解してみる。三つのうち、いちばん手つかずなのはどれかを探す。
  • 新規のお客を増やすことばかり考える前に、「いまのお客に、もう一つ提案できることはないか」を考えてみる。
  • 何かをすすめるとき、相手の不安を取り除く「保証」や「安心材料」を、ひとつ添えてみる。

「新規集客」だけが、伸ばす道ではありません。いまいる顧客との関係を耕すほうが、たいてい近道です。すでにある関係を、もう少し深めるだけで、成果は大きく変わります。

事例より原理を、テクニックより姿勢を

見落としたくないのは、紹介される事例が、アメリカの、しかも少し前のものが中心だ、という点です。具体的な手法は、いまの日本にそのまま当てはまらないこともあります。大事なのは、個々の事例ではなく、「伸ばす道は3つ」「顧客の最善を願う」といった、核となる原理のほうを抜き出すことです。事例は古びても、原理は古びません。

強力な原理は、使い方を誤れば売り込みに転じる

また、ここで語られる原理は強力なので、使い方を誤れば、強引な売り込みにも転じます。「卓越の戦略」が示すように、あくまで顧客の利益を本気で願う姿勢があってこそ、これらの技術は、誠実な商売の味方になります。テクニックだけを取り出して使うと、本書の精神からは外れてしまう、と心に留めておきたいところです。

こんな人に効きそうか

商売をしていて、「売上を伸ばす」というと、つい新規集客のことばかり考えてしまう人。あるいは、マーケティングの、流行に流されない「土台」を、しっかり学びたい人。そういう人に、ビジネスを動かす「3つの数式」という、力強い見取り図をくれます。

商売に直接関わらない人にとっても、「顧客の最善を願う」「相手のリスクを引き受ける」という考え方は、人との信頼関係づくりに、そのまま応用できます。最新のこまかな手法だけが欲しい人には、原理的すぎて向きません。これは、流行の手前にある「原則」を学ぶ本だからです。

読み終えて

雨上がりの明るい軒下に立てかけられた古い番傘。買い手のリスクを売り手が引き受け信頼を築くイメージ

読む前は、売上を伸ばすには新しい何かが要ると思っていました。読み終えたいまは、「伸ばす道は、思っているより、ずっとシンプルだ」と思っています。あれもこれもと、手法を追いかけて消耗する前に、まず、たった3つの原理に立ち返る。そして、目先の売上より、顧客の最善を願う。その土台さえ固まっていれば、どんな手法も、正しく効きはじめます。

まずは、自分の成果を「3つの掛け算」に分解して、いちばん伸ばせそうなひとつを探してみる。その小さな分析から、ずっと放置していた伸びしろが、見えてきます。

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