『億万長者の不況に強いビジネス戦略』ダン・S・ケネディ|景気は選べないが、景気に流されない経営は選べる (2010)

『億万長者の不況に強いビジネス戦略』ダン・S・ケネディ 表紙 マーケティング
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『億万長者の不況に強いビジネス戦略』は、「景気が悪くても潰れない経営を、どう作るか」を、徹底して実戦的に説いた本です。著者のダン・S・ケネディ氏は、アメリカのダイレクト・レスポンス・マーケティングの世界で、伝説とされる人物。多くの経営者を成功に導いてきた、現場叩き上げの戦略家です。本書のメッセージは、ひとことで言えば——「景気は選べないが、景気に流されない経営は、選べる」。

不況になると、多くの会社が「景気が悪いから」と、売上の落ち込みを外のせいにします。けれどケネディ氏は、そこに鋭く切り込みます。本当は、景気に依存しきった経営を、自分が選んでいただけではないか、と。外部の波に振り回される経営から、自分でコントロールできる経営へ。本書は、その切り替え方を教えてくれます。

景気が悪くなったとき、言い訳にできるのは「不況だから」。
だが本当は、景気に依存した経営を、自分が選んでいただけかもしれない。

著者と本の立ち位置

著者のダン・S・ケネディ氏は、アメリカで、ダイレクト・レスポンス・マーケティング——広告に直接の反応を求める、成果重視のマーケティング——を確立した第一人者です。理屈っぽい理論より、「現場で実際に売上が上がるかどうか」を、何より重んじてきました。

本書の副題にも、「屁理屈なし」とあるとおり、その語り口は、きわめて率直で、容赦がありません。耳ざわりのいいキレイごとではなく、「儲けたいなら、こうしろ」と、はっきり言い切る。だから、好き嫌いは分かれますが、覚悟を持って事業に向き合う人には、強く響く一冊です。

「景気のせい」にしない経営

本書の出発点にあるのが、「景気のせいにするのをやめよ」という、厳しくも本質的な指摘です。同じ不況のなかでも、潰れる会社があれば、むしろ伸びる会社もある。その差は、景気そのものではなく、景気にどう備え、どう動いたか、という経営の側にある——ケネディ氏は、そう考えます。

あなたが動かせるのは、集客と価格と関係だけ

だから大事なのは、自分でコントロールできることに、力を集中することです。景気や市場のような、自分には変えられない外部要因に一喜一憂するのではなく、集客の仕組み、価格の決め方、顧客との関係——自分の手で動かせる部分を、徹底的に磨き上げる。外に向けていた責任の矢印を、自分の側に向け直す。それが、不況に強い経営の、第一歩です。

海霧が晴れかけた早朝の甲板。使い込まれた木の操舵輪に麻縄が一巻き掛かっている

価格ではなく「価値」で——安売り競争から降りる

では、具体的に何を磨くのか。本書が繰り返し強調するのが、「価格ではなく、価値で勝負せよ」ということです。不況になると、多くの会社が、値下げに走ります。けれど安売りは、利益を削り、自分の首を絞める消耗戦になりがち。ケネディ氏は、むしろ価値を高め、堂々と高く売る道を勧めます。

どこから来て、いくら使ったかを、数字で持つ

そのために有効なのが、価格よりも価値を大事にする顧客——とくに富裕層に、しっかり目を向けること。そして、集客の入り口を、ひとつのチャネルに頼らず、複数持っておくこと。どこから、どれだけお客が来て、いくら使ってくれるかを、感覚ではなく数字で把握し、マーケティングを「仕組み」として設計する。運や景気任せをやめ、再現できるシステムを作ることが、揺るがない経営をつくります。運は、仕組みの代わりにならない。

昼の斜光の下、木の卓に閉じた革表紙の帳面が一冊と、その上に小さな真鍮の分銅が一つ。価格ではなく価値を数字で持つイメージ

コロナ禍を、LINEでしのいだ

不況期こそ売り方を変える、という本書の姿勢は、私にはコロナ禍の記憶と結びつきます。多くのアパレルが休業を強いられた時期、私のいた会社では、お客様お一人おひとりと直接LINEでつながり、通販の形で対応して売上を立てていました。こまめにやり取りを重ねるうちに、画面越しでも信頼が積み上がっていき、「ここぞ」というときに買っていただけるようになる。

当時は個人の携帯でお客様へのアプローチ数まで管理され、ノルマもあって、正直しんどい時期でした。それでも、逆境で信頼をどう築くかを叩き込まれた、有意義な経験だったと思っています。本書の言う「不況に強い」とは、値引きの話ではなく、この関係づくりのことなのだと実感します。

明日から試せること

  • 売上が上下したとき、「景気のせい」で説明するのをやめ、「自分のどの施策が効いた/効かなかったか」で振り返ってみる。
  • 値下げで勝負する前に、「価値をひとつ足す」方法を考えてみる。安くするより、高くても選ばれる理由をつくる。
  • お客さんと出会う「入り口」が、いま何種類あるかを数えてみる。ひとつしかないなら、もうひとつ増やせないか考える。

コントロールできないものを嘆く時間を、磨ける時間に振り替える。これが効くのは、成果が後者からしか生まれないからです。その積み重ねが、景気に左右されない足腰をつくります。

断定的な語り口から、核の原則を抜き出す

一点だけ補助線を引くと、本書がアメリカの、しかも中小ビジネスの経営者に向けて、強い言葉で書かれている、という点です。語り口は断定的で、あおりに近い表現もあります。すべてを文字どおり受け取るより、「景気に依存しない」「価値で売る」といった、核となる原則のほうを抜き出すのが、賢い読み方です。

良いものを持っている商売にだけ効く

また、マーケティングの力は強力なぶん、使い方を誤れば、強引な売り込みにも転じます。本当に良いものを、それを必要とする人に、堂々と高く届けるために使う——その前提を忘れなければ、本書の戦略は、誠実な商売の、力強い味方になります。

こんな人に効きそうか

自分で事業をしていて、景気や外部環境の変化に、売上を振り回されていると感じている人。安売り競争から抜け出して、価値で選ばれる商売をしたい人。そんな読者は、「自分でコントロールできる経営」という力強い視点を得られます。

経営者でなくても、「外のせいにせず、自分で動かせることに集中する」という考え方は、仕事や暮らしにそのまま応用できます。逆に、おだやかで上品な語り口を好む人には、強すぎる本かもしれません。これは、きれいごとを排した、実戦の書だからです。

読み終えて

夕方の丘の草地で、違う方向から伸びてきた三本の踏み分け道が、一本の樹のもとでひとつに合流している。集客の入り口を複数持つイメージ

「環境は選べなくても、それへの備え方は選べる」。では、あなたはいま、どちらに時間を割いているでしょうか。景気も、市場も、自分では変えられません。けれど、その波が来たときに、流されるか、踏ん張れるかは、ふだんの仕込み次第。言い訳の矢印を、外から自分へ向け直すだけで、できることは、ぐっと増えます。

まずは次に売上が動いたとき、「景気のせい」と言う前に、「自分は何ができたか」をひとつ考えてみる。その小さな問い直しが、外部に振り回されない経営への、第一歩になります。

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