『マネー・コネクション あなたのビジネスを加速させる「戦略」の見つけ方』ジェイ・エイブラハム|伸びるビジネスはいつも「資源のつなぎ直し」から始まる (2017)

『マネー・コネクション あなたのビジネスを加速させる「戦略」の見つけ方』ジェイ・エイブラハム 表紙 マーケティング
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ジェイ・エイブラハム氏は「マーケティングの巨匠」と呼ばれる人ですが、本書のテーマは戦術ではなく 「戦略の見つけ方」。同じく島藤真澄訳でKADOKAWAから出ている『新訳 ハイパワー・マーケティング』が “21の原則” を体系化した教科書だとすれば、こちらは 「自分のビジネスにとっての次の一手をどう見つけるか」 という、より上流の問いに答える本です。

戦略は遠くにあるのではなく、すでに手元にある資源を 「つなぎ直す」 ところに眠っている。

本書のキーメッセージ

エイブラハム氏が米国で2万社以上の事業を伸ばしてきた経験から抽出したのは、シンプルな問いです。「あなたが持っている資産・関係・スキルの中で、まだ繋がっていないものはどれか?」。新規顧客を追いかける前に、既存顧客との接点、休眠リスト、業界の隣の人、自社で培ったノウハウ——これらの “つなぎ方” を変えるだけで、売上は驚くほど動く、というのが本書の通奏低音です。新規を追いかける前に、手元の名簿を開くほうが早い。

章立てに沿ったポイント

  • 戦略と戦術を分ける:多くの中小企業は戦術(SNS運用や広告)に振り回されているが、その上にある戦略——誰に、何を、どんな順序で——が抜けていることが多い。
  • “卓越の戦略”:自分の商品を売るのではなく、顧客が抱えている問題を解く側に立つ。視点を反転させるだけで提案の精度が上がる。
  • 休眠資産の棚卸し:顧客リスト、メディア露出、業界内の関係、自社で偶然できたコンテンツ。「あって当たり前」と思い込んでいる資源を一度紙に書き出すと、組み合わせ余地が見える。
  • “パラレル・プロフィット・ストリーム”:本業を伸ばすことに固執せず、既存の資産から派生する収益源を3〜5本走らせる発想。
  • 提携の設計:ライバル関係に見える企業が、実は補完関係であることが多い。 win-win-win の三方良しを軸に組み立てる。

本書の主張① 最初の問いは「あなたのUSPは何か」

目次の1章目は「あなたは仕事に働かされていませんか」、そして2章目が「あなたのUSPは何か?」です。独自の売りを一文で言えないまま広告や販促を回しても、それは戦術の空回りになる。戦略を探す作業は、新しい何かを買ってくることではなく、自分が何屋なのかを言葉にするところから始まる。この順序が、本書の入口です。(出典:紀伊國屋書店掲載の書誌情報、KADOKAWAの内容紹介)

本書の主張② 「卓越論」——売り手ではなく、相手の最善の利益の側に立つ

3章「卓越論を身につけよう」と4章「クライアントと恋におちる」が、本書の姿勢を決めています。ここで言う卓越とは、性能や価格で他社に勝つことではなく、相手にとっての最善は何かという場所に自分を置き直すことです。立ち位置が先に決まるからこそ、価格構造の見直し(7章)も、紹介システムの構築(10章)も、その延長として設計できるようになります。順番が逆になると、どれも小手先の施策に落ちてしまいます。

本書の主張③ 新しい資源を足す前に、「眠れる宝石」を数える

5章の表題が、あなたの事業の「眠れる宝石」を見つける、です。すでに持っている顧客リスト、過去の実績、休眠している関係。著者が知られてきたのも、隠れた資産の最大化という考え方によってでした。そして12章「自分に合った推薦者を見つけよう」、13章「ジョイント・ベンチャーの無限の可能性」と進むにつれ、視野は自社の外にある他人の資源にも広がっていきます。自前で積み上げるより、すでにあるものをつなぎ直すほうが速い。本書が一貫して取る立場です。

検証と委譲——アイデアで終わらせないための2章

8章「テストマーケティングの重要性」と11章「『最適化』のために権限委譲を」が、この本を精神論から引き離しています。思いついた戦略は必ず小さく試して数字を見る。そして、うまくいった仕組みは自分の手から離す。版元が掲げる、10,000社以上の経営者を成功に導いた原理原則という惹句が実務として意味を持つのは、この2章があるからだと思います。

この本を読むとどうなるか

読み終えて増えるのは施策のリストではなく、「いま自分が持っていて、まだ使っていないものは何か」という問いを定期的に自分へ投げる習慣です。著者は『フォーブス』誌が2000年に全米トップ5の経営コンサルタントに選んだ人物で、W・エドワーズ・デミングから直接学んでいます。KADOKAWAから2017年5月刊、島藤真澄監訳、B6判288ページ。以下は、この「つなぎ直し」の視点を自分の仕事に当てはめてみた記録です。

机に広げたノートの上で、本や名刺などの資源が一本の金茶色の糸で結ばれていく水彩の俯瞰イラスト

今日から試せること

  1. 自分のビジネス(または仕事)の “休眠資源” を10個書き出す。過去の顧客、過去のコンテンツ、過去に教わった人、いまは使っていないスキル、など。
  2. その中から、組み合わせれば新しい価値が生まれそうな2つのペアを選ぶ。
  3. そのペアを試す最小実験を1週間以内に1つだけ走らせる。

一人のお客様が、次のお客様を連れてくる

売上を「一人あたり」で見ているうちは、たぶん半分しか見えていません。毎週のように遊びに来てくださる男性のお客様が、あるとき職場の同僚を連れてきてくださって、そのお友達がそのまま購入につながったことがありました。

こういう横の広がりは、狙って作れるものではなく、一人のお客様との信頼が自然に派生していくものです。生涯価値(LTV)を一人ずつ積み上げる発想も大切ですが、その一人が友人や家族へと連れていってくれる——このつながりの連鎖こそ、本書の言う「マネー・コネクション」の正体だと感じます。

新品と中古のあいだにある、大きな段差

つなぎ直しという視点で見ると、一次流通と二次流通のあいだにはまだ大きな段差が残っています。古物の側に立ってみて驚いたのは、状態にかかわらず、新品と中古であまりにも価値の差がつくことでした。

あなたが手放したものは、いくらで並ぶか

一部の高い付加価値を持つ商品は例外です。ただそれ以外は、ほとんど使われていない物であっても、新品の値札とはかけ離れた額になります。同じ物であることに変わりはないのに、流通の側が変わるだけで価格が別物になる。

本書の言う資源のつなぎ直しは、この段差をどう埋めるかという話でもあると思います。眠っている資源は、まだ値札の隙間にたくさん残っています。値札そのものをゼロにして稼ぐ設計については、『フリー』クリス・アンダーソン氏の書評にまとめました。

紙と対面営業を前提にした事例が多い

翻訳出版は2017年。当時は紙の媒体や対面営業を前提とした事例が多く、いまの AI・SNS全盛時代の感覚とは少しズレる箇所があります。ただし、骨子である 「資源を再定義する」 という発想は、生成AIを社内資産として組み合わせる現代の問題意識にも通じます。技術が変わっても、戦略の本質は古びない。

こんな人に合いそう

  • 事業が伸び悩み、SNS運用や新規広告に手を伸ばす前に「順序」を見直したい人
  • 既存事業に少し飽きが来て、次の柱を探している中小企業の経営者
  • マーケティングの本を読み漁ったが、自分のビジネスへの落とし込みでつまづいている人
小川の両岸を小さな木の橋がつなぎ、両岸に本が置かれた水彩イラスト

おわりに

派手な裏ワザは出てこない。けれど、目の前の顧客リストや関係性が「資産」に見えてくる本です。戦略の出発点は、いつも自分の手元にある——その視点を取り戻すために、定期的に開きたい一冊。

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