『サイコロジー・オブ・マネー』で世界的なベストセラーを出したモーガン・ハウセル氏の、次の一冊です(原書は2023年、日本語版は2024年・三笠書房/伊藤みさと訳)。前作がお金と心理の本だったのに対し、こちらは射程を広げて、「時代が変わっても変わらない、人間の行動原理」を主題にしています。短いエッセイを20話あまり集めた構成で、どこから読んでも入っていけます。新しいものを追いかけたくなったとき、あなたは何を思い出しますか?

心に残るところ
- リスクとは、目に見えないもの——想定できる危機より、誰も予想していなかった出来事のほうが大きな打撃になる。だから予測ではなく、耐えられる備えに投資する。
- 幸福は「現実 − 期待」——状況を変えるより、期待をうまく扱うほうが、満足度を左右する。
- 最高のデータより、最高のストーリーが勝つ——人は統計ではなく、物語で動く。
- 価値あるものは、時間と希少性から生まれる——近道より、続けること。完璧を求めすぎると、かえって失うものがある。
前作との違い
前作『サイコロジー・オブ・マネー』が「お金との付き合い方」に絞った本だとすれば、本書はそれを人生・ビジネス・社会全般に広げた続編のような立ち位置です。海外ではニューヨーク・タイムズのベストセラーになり、ハウセル氏本人もティム・フェリス氏のポッドキャストなどで語っています。ちなみに本書にはビル・ゲイツ氏の逸話が“事例として”出てきますが、ゲイツ氏が本書を推薦した、という話ではありません(前作の有名なエピソードと混同されがちです)。
売り場で見てきた、変わらないもの
「変わらないものに注目せよ」というハウセル氏の視点は、私の実感とも重なります。アパレルの売り場に20年近くいて、トレンドは何周も回りましたが、ひとつだけ変わらなかったことがあります。お客様は、商品と同時に「接客する人」を見定めている、ということです。店の雰囲気や空気感まで含めて、接客体験のすべてが価値に含まれています。
売れる人は、先回りして安心させている
売れる人は、お客様の心理を読みながら先回りして安心させる言葉をかけ、信頼を少しずつ積んでから、嫌味なくさりげなく購入へ近づけていきます。土台に相手への愛情があるスタッフのお客様は、一度離れても、また戻ってくることが多かったものです。道具やチャネルがどれだけ変わっても、人が信頼にお金を払うという性質は、たぶんこの先も変わらないと思います。
中古市場でも、残るものは決まっている
同じことを、中古市場でも感じます。状態がそれほど良くなくても、昔から流行り廃りのないクラシックな一点は、それなりの金額で取引されることが多いのです。ラグジュアリーのトップブランドで定番と呼ばれるバッグなどは、その典型です。
逆に、定価が高くても値がつきにくいものもあります。マーケットでさほど認知されていないブランド。あるいは有名ブランドであっても、デザインに寄った一点。そのときの空気に強く合わせた物ほど、空気が変わったあとに行き場をなくします。普及の度合いによっても、残る額は変わってきます。流行に寄せた分だけ、あとで置いていかれる。
十年後の値段は、値札に書いていない
新品として売れるかどうかと、十年後にいくらで引き取られるかは、別の話です。変わらないものに注目するというハウセル氏の視点は、値札の裏側でも同じように働いています。
紙は、消えると言われ続けて残っている
もうひとつ、変わらなかったものを近くで見たことがあります。新卒で入ったのは四国の製紙工場で、紙の原料になる木材チップや古紙を仕入れる部署にいました。電子化が紙を減らすという話は、そのころから業界にありました。
トイレットペーパーは、まだそこにある
実際、本や書類のような用途では落ち込む部分もあります。それでも、トイレットペーパーがあり、包装があり、文房具があり、紙という素材は暮らしのあちこちに残り続けています。需要が減る局面はあっても、そのたびに用途のほうが見直されてきて、素材そのものが消えることはありませんでした。何が伸びるかを当てるより、何が残るかを見ておくほうが有効だという本書の姿勢は、あの現場で聞いた話とよく重なります。
「焼き直し」と感じるか、1話完結が効くか
一つひとつの話は、目新しい大発見というより、「言われてみればそうだ」と膝を打つ普遍的な知恵です。だからこそ「焼き直しでは」と感じる人もいます。逆に、忙しくて一気読みが難しい人には、この“1話完結”の作りがちょうどいいと思います。刺さった話だけ、折に触れて読み返す——そういう付き合い方が合う本だと思います。

こんな人に
情報や流行に追われて、なんだか疲れてしまった人。投資でも仕事でも、「ブレない土台」を持ちたい人に。
おわりに
未来を当てにいく本ではありません。むしろ「未来は読めない」と認めたうえで、それでも変わらないものに軸足を置く。派手さはないけれど、読み返すほど効いてくる——手元に置いておきたくなる一冊でした。20年先も変わらないもののほうに、私はこれからも張るつもりです。
📖 『SAME AS EVER この不確実な世界で成功する人生戦略の立て方』 モーガン・ハウセル



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