『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」』桑原晃弥|資産10兆円の投資家が世界を見るシンプルな8原則 (2021)

『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」』桑原晃弥 表紙 お金・投資
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ウォーレン・バフェットといえば、株で巨万の富を築いた「投資の神様」というイメージが先に立ちます。けれどこの本が見ているのは、彼の銘柄選びのテクニックではありません。日本の経済ジャーナリストである桑原晃弥さんが、バフェットの生き方や仕事への向き合い方を、誰でも使える8つの考え方として整理し直した一冊です。

だから投資をしない人が読んでも、ちゃんと持ち帰るものがあります。むしろ「お金の話」よりも「生き方の話」として読むと、この本の良さがよく見えてきます。

バフェットは天才ではない。長い時間軸でものを見て、自分が理解できる範囲だけで勝負し、良い習慣を守り抜く。
その地味な原則を、複利のように積み重ねてきただけだ。

著者と本の立ち位置

著者の桑原晃弥さんは1956年生まれの経済・経営ジャーナリストで、ジョブズやベゾスといった起業家、そしてバフェットの研究を長く続けてきた人です。バフェット関連の本も何冊も書いています。

つまり本人を取材した一次情報というより、バフェットの言葉や行動を集めて「要するにこういうことだ」とわかりやすく整理する編集のうまさが持ち味の書き手なのだと思います。この本もまさにその型で、はじめてバフェットの人物像に触れる人へのやさしい入り口になっています。

読者レビューでも評価は高く、「投資の手法より生き方が哲学的だった」「周りに流されない生き方を見直す機会になった」という感想が目立ちました。

能力の輪と内なるスコアカードのイメージ:円の中で静かに読書する人

8つの哲学を、ざっと見渡す

本書は序章のあと、8つの哲学を順番に解説していきます。それぞれが私たちの暮らしにどう効くのかを、軽く見ていきましょう。

  • ものの見方 来月の損得ではなく、10年後にどうなっているかでものを判断します。
  • 考え方 周りの声や流行に流されず、自分の頭で考えます。みんなが買うから買う、では動きません。
  • 守備範囲 自分が深く理解できる「能力の輪」の外には出ません。わからないものには、どんなに儲かりそうでも手を出しません。
  • リスク対策 何より「損をしない」を原則にします。攻めて勝つより、まず負けないことを優先するのです。
  • 習慣 一度決めたルールと良い習慣は守り抜きます。気分でルールを曲げないところに強さが宿ります。
  • お金のルール 派手な一発を狙わず、毎年着実に積み上げます。
  • 時間管理 時間は本当に大切なことだけに使います。だからこそ、断る勇気とセットで考えます。
  • 自分磨き 良い人生はお金では買えないと考えます。これは富を築いた人が最後にたどり着いた人生観でもあります。

並べただけだとどれも当たり前に見えますが、いくつかは本文で読むと印象が変わります。たとえば「守備範囲」、つまり能力の輪の話です。バフェットは流行のIT株が高騰していたときも、自分が事業の中身を理解できないという理由で、長く手を出しませんでした。

儲け損なうのを承知のうえで、わからないものは見送る。これは投資に限らず、よく知らない副業やうまい話に飛びつかない、という日常の判断にもそのまま置き換えられます。「お金のルール」も同じで、一発逆転を狙わず毎年こつこつ成果を出すという姿勢は、地味なのに、後で触れる複利の効果と組み合わさったとき静かに大きな差を生みます。

この本を一本の糸でつないでいるのが「内なるスコアカード」という言葉です。世間からどう見られるか(外のスコアカード)ではなく、自分が納得できるか(内なるスコアカード)で行動を決める、という考え方です。たとえば、SNSの「いいね」の数や上司の機嫌を判断のものさしにすると、人の評価が変わるたびに自分の答えも揺れてしまいます。

そこを自分の基準に置き換えると、相場が荒れても周りが慌てても、ぶれずにいられます。バフェットがこの内側のものさしを持てたのは、子どもの頃から数字や原則を地道に積み上げてきた人だからだと本書は描きます。投資だけでなく、仕事でも人付き合いでも効いてくる視点だと感じました。

複利のイメージ:坂を転がりながら大きくなる雪だるま

研究が裏づける、地味な原則の強さ

面白いのは、この8つの哲学が、心理学や経済学の研究ときれいに重なるところです。たとえば「損をしない」という原則。人は得をする喜びより、同じ額を損する痛みのほうを強く感じます。

心理学者のカーネマンとトベルスキーが唱えたプロスペクト理論によれば、損の痛みは得の喜びのおよそ2倍ほど重いと見積もられています(この数値は近年の研究で幅があるとも言われますが、損のほうが重く感じる傾向そのものは広く支持されています)。

だから「まず負けない」というバフェットの姿勢は、人間の心の作りにかなった守り方なのだと納得できます。

「頻繁に動かない」という哲学にも、数字の裏づけがあります。行動経済学者のバーバーとオディーンがアメリカの約6万5千の証券口座を調べた研究では、売買を一番たくさんした人たちの成績が年11.4%だったのに対し、買ってじっと持ち続けた人たちは18.5%でした。

動けば動くほど、手数料や判断ミスがかさんで成績が下がっていたのです。せわしなく動くより、いいものを選んでじっくり持つほうがいい。それが数字でもはっきり示されています。

そして「時間が最大の武器」という話です。バフェットの資産のおよそ99%は、彼が65歳を過ぎてから積み上がったものだと言われます。投資の腕はもちろんありますが、本当の秘密は若い頃から長く続けたという「時間」のほうにあったわけです。

複利、つまり利益がさらに利益を生む雪だるま式の効果は、時間をかけるほど後半で爆発的に効いてきます。作家のモーガン・ハウセルも、バフェットが65歳で引退していたら誰も彼を知らなかっただろう、と書いています。あせらず続けることの価値を、これほど雄弁に語る例はそうありません。

待つ強さのイメージ:静かな湖でのんびり釣り糸を垂れる人

明日から試せる3ステップ

  1. 大きな決断の前に「これは自分が本当にわかっている分野か」と一度声に出して問い直す。すぐ答えられないなら、その話は一旦見送る。
  2. 判断のものさしから「人にどう見えるか」を一つ外してみる。たとえば、買うかどうかをSNSの評判ではなく自分が長く使うかどうかで決める。
  3. 続けたい良い習慣を一つだけ紙に書いて、机やスマホの待ち受けなど毎日目に入る場所に貼る。気分が乗らない日も、まずその一つだけは曲げない。

「真似すれば勝てる」と読まないために

ひとつ冷静に押さえておきたいのは、「バフェットの真似をすれば自分も勝てる」とは限らないことです。

フラジーニらが彼の成績を細かく分解した「Buffett’s Alpha」という分析では、好成績の正体は「安くて質の高い株を選ぶ目」に加えて、保険事業から得た安いお金を元手にした、いわば1.6倍ほどの「てこ」の効果だったと指摘されています。普通の個人には簡単に真似できない仕組みが背景にあるわけです。

語られるのは成功例ばかりで、消えていった投資家は表に出てこない、という見方も忘れずにいたいところです。

面白いのは、バフェット自身が一般の人にはインデックス投資(市場全体に広く分散して買う方法)を勧めていることです。彼は2008年からの10年間、プロのヘッジファンドを相手に「市場平均のほうが勝つ」という100万ドルの賭けをして、圧勝しました。

だからこの本も、彼の投資テクニックをなぞる本としてではなく、長い目で見る・自分の頭で考える・良い習慣を守るという「生き方の原則」として読むのがいちばん効くのだと思います。技を盗もうとするのではなく、考え方の土台を借りる。そこにこそ、投資をしない人にも応用できる価値があります。

誰の手に取ってほしいか

この本がいちばん効くのは、バフェットの名前は知っているけれど人物像はよく知らない、という人だと思います。やさしい入り口として、ちょうどいい厚みと語り口です。投資のためというより、流行や周りの声に振り回されがちで「自分の軸がほしい」と感じている人にも、強くおすすめできます。

日々の小さな選択で「みんながやっているから」と流されてしまう自覚がある人ほど、内なるスコアカードという言葉が刺さるはずです。逆に、具体的な銘柄分析や財務の読み方を学びたい人には物足りないでしょう。これはテクニックの本ではなく、考え方の本だからです。

著者は同じテーマの本を何冊も出しているので、すでにバフェット本を読み込んでいる人には目新しさは薄いかもしれません。

読み終えて

結局この本が伝えているのは、成功の正体は派手な才能ではなく、地味な原則を長く守り続けたことだった、という一点に尽きます。長い時間で見る。わかる範囲で勝負する。

決めた習慣を曲げない。どれも今日から真似できることばかりで、特別な才能はいりません。バフェットほどの結果は出せなくても、考え方の土台は誰でも借りられます。

世間の評価をいったん脇に置いて、自分の中のものさしで暮らしを整え直してみたい。読み終えたあと、そんな気持ちがしばらく残りました。

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