『読書する脳』毛内拡|本を読むという行為が、脳に何を起こしているか (2025)

『読書する脳』毛内拡 表紙 学び・自己成長
この記事は約6分で読めます。

『読書する脳』は、「本を読んでいるとき、私たちの頭のなかでは、いったい何が起きているのか」を、脳科学の視点から解き明かす本です。著者は、お茶の水女子大学で脳を研究する、神経生理学者の毛内拡氏。なぜ紙の本で読んだ内容は記憶に残りやすいのか。なぜ読書をすると「頭が良くなる」のか。当たり前にやってきた読書という行為を、改めて科学のレンズで見つめ直します。

動画やSNSで、情報はいくらでも手に入る時代です。それでもなお、「読書」にしかできないことがある——本書は、そう教えてくれます。文字を追い、頭のなかで映像を組み立て、自分自身と対話する。読書は、受け身に見えて、じつは脳をフルに働かせる、能動的な営みなのです。途中で一度も画面を見ずに一冊を読み切ったのは、いつが最後ですか?

読書は、ただ情報を受け取る行為ではない。
文字を絵に変え、想像で補い、自分と対話する——脳をフル回転させる、最高の運動だ。

著者と本の立ち位置

著者の毛内拡氏は、脳のしくみを研究する神経生理学者です。専門的な脳科学の知見を、一般の読者にも分かるよう、やさしくかみくだいて伝えることで知られています。本書も、難解な専門書ではなく、「読書好きが、自分の頭のなかで起きていることを知って、もっと読書を楽しめるようになる」ための一冊です。

うれしいのは、本書を読むと、ふだんの読書の意味が、少し変わって見えてくることです。なんとなく良いと思っていた読書習慣に、「だから効くのか」という科学的な裏づけが与えられる。すると、本を開くのが、これまで以上に少し楽しみになります。

読書しているとき、脳で何が起きているか

本書がまず描くのは、読書中の脳の、意外なほど複雑な働きです。私たちは、文字という記号を見て、それを音や意味に変換し、さらに頭のなかで、情景やイメージを組み立てています。漢字と仮名が混ざった日本語の文章を、すらすら読めること自体、脳の高度な処理の賜物なのです。

右ページの下のあたり、という手がかり

とくに面白いのが、「紙の本のほうが記憶に残りやすい」という話です。紙の本には、「あの内容は、右ページの下のあたりにあった」というような、空間的な手がかりがあります。脳は、その物理的な位置の感覚も一緒に使って、内容を覚えている。だから、つるりと流れていく画面より、紙のほうが、記憶に引っかかりやすいのではないか——本書は、そう説明します。

書評ブログを続けるうちに、紙で読んだ本と画面で読んだ本では、あとから思い出せる量が違う気がしていました。紙の本は「後半のあの辺りに書いてあった」という場所の感覚ごと残ります。あの感覚に説明がつくのは、うれしい発見でした。

木の卓に置かれた布装の本から垂れる細い栞紐。紙の本に残る「どのあたりに書いてあったか」という場所の感覚のイメージ

読書がメンタルを整える——「反芻思考」を鎮める

本書のなかでも、とくに印象に残るのが、読書と心の健康の関係です。私たちの脳には、何もしていないとき、ぼんやりしているときに活発になる「デフォルトモードネットワーク」という回路があります。これは、考えごとや反省に役立つ一方で、暴走すると、過去の失敗を何度も思い返す「反芻思考」を生み、不安や気分の落ち込みにつながると言われます。

なぜ本を開くと、悩みの反芻が止まるのか

ここで効くのが、読書です。物語や文章にぐっと没頭しているあいだ、脳は、その回路の過活動から解放されます。ぐるぐると同じ悩みを巡る代わりに、本の世界に意識が向く。だから読書は、頭を休め、精神的な疲れを防ぐ効果も期待できる、と本書は語ります。さらに、物語の登場人物に感情移入することで、他者への共感力や社会性まで育つ——読書は、知識だけでなく、心のしなやかさも養うのです。本を開くことは、脳を休ませることでもある。

木陰に張られた誰も乗っていない麻布のハンモック。読書が反芻思考を鎮め、脳を休ませるイメージ

紙・電子・耳の、私の使い分け

私自身は、あまり厳密に考えず、状況で使い分けています。移動中はイヤホンでAudibleやYouTubeの“耳のインプット”。運動しながらのインプットは記憶に残りやすいというデータもあるようなので、歩いている時間はなるべく耳を働かせています。

旅行には、紙の本は重いので電子書籍。そして自宅でゆっくり読むときは紙——正直、最近は紙から少し離れ気味なのですが、それでも「読書をした」という手応えがいちばん残るのは、やはり紙の本なんです。本書を読むと、その体感には脳の側の理由があったのだと納得できます。

明日から試せること

  • 一日のうちに、スマホを別の部屋に置いて、紙の本だけに向き合う時間を、短くてもいいので作ってみる。
  • 気分がぐるぐると落ち込みそうなときこそ、あえて本を開いて、物語の世界に意識を逃がしてみる。
  • 読み終えた本の内容を、一度、自分の言葉で短く要約してみる。脳に「大事な情報」として刻まれやすくなる。

全部を一度にやろうとせず、まずは「ながら読み」をやめて、いったん没頭してみる。集中して読むほど、脳は深く働き、記憶にも心にも、しっかり効いてきます。

脳科学の「いまのところ」という温度感

ひとつ補助線を引くと、脳科学には、まだ分かっていないことも多いのです。本書も、断定ではなく「こう考えられている」という形で語る場面が多くあります。一つひとつを絶対の真実として受け取るより、「いまの科学では、こう説明されている」という温度感で読むのが、ちょうどいいでしょう。

紙を見直す本であって、電子を切り捨てる本ではない

また、紙の本の良さが強調されますが、電子書籍が悪い、という単純な話ではありません。手軽さや検索のしやすさなど、電子ならではの利点もあります。大事なのは、目的に応じて使い分けること。本書は、紙を見直すきっかけをくれますが、どちらか一方を切り捨てる本ではない、と受け取るのがよさそうです。

こんな人に効きそうか

ふだんから本を読むのが好きで、「自分の頭のなかで何が起きているのか」を知りたい人。あるいは、最近、動画やSNSばかりで、じっくり読書する時間が減ってしまったと感じている人。そういう人に、もう一度、本を開きたくなる理由をくれます。

専門的な脳科学を学術的に学びたい人には、向きません。本書は研究書ではなく、読書という身近な行為を入り口に脳の面白さを伝える、やさしい入門書だからです。

読み終えて

明るい朝の窓辺、白い木のスツールに置かれた読みかけの本と水のグラス。もう一度本を開きたくなる静かな時間のイメージ

本を閉じて残ったのは、「読書は、思っていたよりずっと贅沢な脳の使い方だった」という一つの発見です。文字を追いながら、想像し、感じ、自分と対話する。その全部を、私たちは本を読むたびに、何気なくやってのけている。それを知ると、一冊の本に向かう時間が、少しだけ豊かに思えてきます。耳と画面に頼る日々だからこそ、紙の時間を意識して残したいと思わされました。

まずは今日、スマホを置いて、紙の本を数ページだけ開いてみる。その静かな時間が、脳にも心にも、思いのほか効いてくれます。

本の要点をまとめて発信する習慣を続けてきて、読むだけだった頃より内容が長く残るのを実感しています。「書く前提で読む」ことも、本書の言う能動的な読書のひとつなのだと思います。

📖 『読書する脳』 毛内拡

📕 Amazonで詳細を見る 🛍 楽天で詳細を見る

コメント

タイトルとURLをコピーしました