「サラリーマンなのに、控除後の所得が日本一」。かつてそう報じられた伝説のファンドマネージャー、清原達郎氏が、引退にあたって手の内をすべて明かした一冊です(2024年・講談社)。25年間の運用でファンドを約93倍に育てた人が、「もう隠す必要もない」と、その手法と失敗の両方を書いています。発売から次々に重版がかかり、24万部を超えました。
先に白状すると、私自身の投資はインデックスの積立が軸で、本書のような個別株の勝負の世界は「読む専門」です。それでも——いや、だからこそ、市場の最前線で戦い抜いてきた人の言葉には、外から眺めるだけでは分からない重みがありました。

心に残るところ
- 中核は「割安な小型成長株」への集中。大型株は多くの目が届いて割安が消えやすいが、小型株には見落とされた割安が残りやすい、という考え方。
- 独自の「ネットキャッシュ比率」——ざっくり言えば、会社の実質的な手元資金が、時価総額に対してどれくらいあるか。これが高い銘柄を割安の候補として探します。
- 「正しくても儲かるとは限らないし、間違っても儲かることがある」——投資は確率のゲームだ、という醒めた認識論。
- 1章を割いて「やってはいけない投資」を挙げているのも、この本の誠実なところ。
著者について
東京大学からスタンフォードのMBAを経て、野村證券やゴールドマン・サックスなどを渡り歩き、タワー投資顧問で旗艦ファンドを率いた人です。2018年に咽頭がんで声を失い、2023年に運用を退きました。「後継者もいないので、蓄積したノウハウを全部世に出そう」というのが、本書を書いた動機だそうです。もし明日から自分で銘柄を選ぶなら、どこから手をつけますか?
相場は、自分で掴みに行く
買い付けの前に、必ずすることがあります。フリマサイトやネットで、実際にいくらで取引されているかを調べることです。市場で価値があるかどうかが基本で、そこに自分の好みを混ぜないように気をつけています。
知名度と、値のつき方はずれる
一般にはあまり知られていないブランドでも、コアなファンに支えられて高い値で取引されるものがあります。逆に、名前は誰でも知っているのに値がつきにくいものもある。素人ほど、主観で価値を判断したり、マーケットのニーズを思い込みで決めてしまいがちです。データを自分で掴みに行ってから動く。それだけで、外し方がずいぶん減ります。
調べる手間を惜しまない人にだけ見えてくる差がある。本書を読みながら、その一点は売り場でも中古市場でも同じなのだと感じました。値段は、主観では決まらない。
著者自身が「ノウハウ本ではない」と念を押す
ここは大事なところで、著者自身が何度も「これは個人投資家向けのノウハウ本ではない」と念を押しています。ネットキャッシュ比率のスクリーニングを、そのまま真似て買えば勝てる、という話ではありません。小型株特有の値動きや、空売り・ペアトレードの難しさもあり、基礎知識がないと読みにくい章もあります。初心者はまず低コストのインデックス積立を土台にしつつ、「プロはこういう世界で戦っているのか」を知るための一冊——そんな距離感がちょうどいい。
二度の暴落を、積立のまま通り過ぎた
リーマンショックもコロナショックも、悲観一色の相場が時間とともに戻っていくのを、積立を続けながら実際に見てきました。プロの勝負の世界を覗いたあとでも、市場全体に分散して時間を味方につけるという自分の戦い方は変わりません。むしろ「自分はプロと同じ土俵で戦わない」という線引きが、いっそうはっきりします。
こんな人に
インデックス投資はもう続けていて、その先の“プロの思考”を覗いてみたい人。株式市場の裏側を、一流の当事者の言葉で知りたい人に。

おわりに
手法をそのまま真似できる人は、ほとんどいないかもしれません。それでも、日本一まで上り詰めた運用者が、勝ちパターンも失敗も隠さずに書き残した記録には、独特の迫力があります。読み物としても、じゅうぶんに面白い一冊でした。
📖 『わが投資術 市場は誰に微笑むか』 清原達郎



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