40代の独立が怖かった話——不安の正体と、私がつくった安全網

『DIE WITH ZERO』ビル・パーキンス 表紙 生き方・人間関係
この記事は約7分で読めます。

40代で独立を考えると、まず出てくるのは不安だと思います。収入は安定するのか、社会保険はどうなるのか、この歳からやり直せるのか。自分も40代で会社を辞めた一人なので、その足のすくむ感じはよく分かります。

ただ、最初にひとつ数字を置かせてください。日本政策金融公庫の2024年度調査では、開業時の年齢は「40歳代」が37.4%で最多。開業時の平均年齢は43.6歳です。40代の独立は「遅い挑戦」ではなく、統計的にはど真ん中。この記事では、店舗異動の直後に会社を辞めた自分の実際と、支えになった本の考え方から、「不安との折り合い方」を書いてみます。

朝日が斜めに差し込む早朝の無人の駅ホームと遠くへ霞む線路。毎日の通勤と、そこから踏み出す一歩のイメージ

「歳だけをとっていく」ほうが怖かった

独立を決めた瞬間は、劇的な事件ではありませんでした。40歳を過ぎたころ、毎日決まった時間に通勤している自分に、ふと気づいたんです。転職はしてきたけれど、結局は自由のないまま、別の店舗に勤めているだけ。体は元気なのに、毎日同じことを繰り返して、気がついたらどんどん歳をとっていく——その恐怖のほうが、独立の不安よりも大きくなっていました。

最後の会社では、店舗異動になったばかりのタイミングでした。普通なら「異動したばかりだし、もう少し様子を見よう」と考える場面かもしれません。でも、その「もう少し」を何年も繰り返してきたことに気づいて、辞めることを決めました。先送りには、期限がない。

背中を押してくれた、一冊の本の考え方

金を残して死ぬのは、そのために働いた時間をタダで捨てること。そして経験には賞味期限がある——「いつかやる」の多くは、思っているほど先送りできない。

あの決断を後押ししてくれた考え方が、ビル・パーキンス氏の『DIE WITH ZERO』(2020年・ダイヤモンド社)にあります。当ブログの書評でも紹介しましたが、この本の核は「経験には賞味期限がある」ということ。若く健康なうちの経験は、その後の人生に「記憶の配当」を生み続ける。逆に、本書が引く米国の調査では、資産の多い退職者は退職後20年で資産の1割強しか使っていなかったそうです(米国のデータなので日本にそのまま当てはまるわけではありませんが)。つまり多くの人は、使うために貯めたはずのお金と時間を、使わないまま終えている。

先送りのコストは、目に見えないまま積み上がる

「体は元気なのに歳だけをとっていく」という自分の恐怖は、要するにこれでした。独立の不安は目に見えやすい。でも、先送りのコストは目に見えないまま積み上がる。どちらも同じ「リスク」なのに、片方だけを恐れていたんです。

不安の正体は、案外はっきりしている

フリーランス白書2025を読むと、独立後の満足は面白い形をしています。働く時間や場所の自由、プライベートとの両立には7〜8割が満足している一方、収入への満足は34%にとどまり、不満(40.2%)が上回る。また、ある民間調査(回答200人と小規模ですが)では「独立して後悔したこと」の1位は経済的な不安定さ(64.5%)——それでも「もう一度選ぶならフリーランス」と答えた人が65%でした。

収入と保障のあたりに、固まって存在している

つまり、独立の不安は「漠然とした何か」ではなく、収入と保障のあたりに、はっきり固まって存在している。漠然とした不安は手の打ちようがないけれど、場所が分かっている不安には準備ができます。

私の1年目は、会社員時代の半分でした

数字で言うと、独立1年目の年収は会社員時代の約半分まで落ち込みました。「収入への満足は34%」という統計は、私にとって実感のある数字です。落ちたのは事実です。ただ、それで生活が壊れたかというと、そうはなりませんでした。

2年目からは税金のコントロールが少しずつできるようになり、手元に残るお金をサラリーマン時代に近いところまで戻すことができました。会社員のときは、給与から引かれていく金額をただ眺めるだけで、動かせる余地がなかった。独立して初めて、そこが自分の裁量になったわけです。

だから独立の収入不安は、「半分になるかもしれない」という話ではありませんでした。「半分になる期間を、どれだけ持ちこたえられるか」という話でした。期間の問題なら、辞める前から準備ができます。

私の安全網は、貯金の額ではなかった

正直に言うと、独立直後の不安は思っていたより小さいものでした。理由を分解すると3つあります。ひとつは、もともと洋服にかけるお金以外は質素な生活だったこと。生活のサイズが小さければ、「なんとかなる」のラインは下がります。ふたつめは、辞める前に古物商の資格を取っていたこと。セレクトショップからラグジュアリーブランドまで約20年業界にいて、ブランドの価値や洋服の目利きには自信があったので、最悪、古着の転売で食べていけるという具体的な逃げ道を作ってありました。みっつめは、独立や投資についての知識を貪欲に学んでいたことです。学びが増えるほど、不安は「未知」から「課題」に変わっていきました。

「特殊知識」という名前がついていた

あとからナヴァル・ラヴィカント氏の本を読んで、これには名前がついていると知りました。「特殊知識」——学校では教われない、その人が好きで積み上げてきたからこそ持っている知識。ナヴァルは、それこそが個人の富の土台だと言います。20年間の店頭とバイイングで染みついた目利きは、履歴書には書きにくいけれど、確かに自分だけの資産でした。独立の安全網は貯金の額だけではなく、「自分は何で食べていけるか」の解像度なのだと思います。

独立は、一人でするものではなかった

もうひとつ、予想外だったことがあります。独立後の仕事の話は、求人サイトからではなく、それまでの関係構築から来たということです。会社員時代に誠実に付き合ってきた人たちが、「独立したなら」と声をかけてくれた。瀧本哲史氏が『君に友だちはいらない』で言う「なんとなくの友だちではなく、目的を共有できる仲間」の意味を、独立してから実感しました。40代の独立が20代と違うのは、この蓄積を持って始められることです。遠回りに見えた会社員の20年は、無駄ではありませんでした。

二十年持っていた、一足の話

使い切るという考え方に、ひとつだけ例外を感じた経験があります。二十年ほど前に友人から五万円で譲ってもらったナイキのビンテージスニーカーを、先ごろ十三万円ほどで手放しました。年月が経ったぶん、価値のほうが上がっていたのです。

希少なものは、時間が経つほど値を増していくことがあります。中古市場を見ていると、この現象は珍しくありません。持っていたことが、結果として得になったという話です。

ただ、これを狙って何かを抱え込むのは別の話だと思います。値上がりを待つあいだ、その物は使われないまま箱の中にあります。本書が問題にしているのは、まさにその時間のほうです。私の場合はたまたま値が上がっただけで、狙ってできることではありませんでした。

辞めると伝えた日のこと

上司に独立したいと伝えたときのことは、よく覚えています。相手はあまり理解できていない様子でした。同じ業界で長く働いてきた人間が、なぜここで降りるのか、腑に落ちなかったのだと思います。それでも最後は「決めたことなら仕方ない」と認めてくれて、辞めるまではスムーズに進みました。

引き止められて揉めることを覚悟していたので、拍子抜けしたくらいです。辞める前にいちばん重く感じていたことの一つが、実際にはほとんど起きなかった。不安の中身を一つずつ数えていくと、こういう項目が案外あります。

早すぎたのか、遅すぎたのか

あの時期に辞めたのは、結果論として最適だったと思っています。ただ、もう少し若い時代にお金の知識や素養が身についていれば、もっと早く辞めることができたかもしれない、とも思います。足りなかったのは勇気ではなく、判断するための材料のほうでした。

明日からの、3つの一歩

  • 「自分の特殊知識」を紙に書き出す——業界歴で染みついた目利き・勘所・人脈。履歴書に書けないものほど価値があります。「最悪これで食べていける」が1つ見つかると、不安の質が変わります。
  • 最悪シナリオを数字にする——見栄を落とした生活費を月額で出し、「何ヶ月生きられるか」を計算する。漠然とした不安を、対処できる課題に変換する作業です。
  • 辞める前に、小さく始める——資格を取る、週末に副業を試す、発信を始める。不安は消えるのを待つものではなく、行動するほど縮むもの。心理学ではこれを回避をやめることの効果として説明しますが、体感としても本当でした。
夕日が沈む金色の水平線と、砂浜にひとすじ続く足あとの水彩イラスト — 思い出を残して人生を使い切るイメージ

おわりに

「もっと早く独立すればよかったですか?」と聞かれたら、正直、過去には戻れないので「これで正解だった」と思うしかありません。ただ、遠回りした分だけ、慎重で、そのくせ大胆な判断ができるようになった気はしています。心理学には「やらなかった後悔は、やった後悔より長く残る」という有名な研究があります。40代は、その「やらなかった」を積み増すには、少しもったいない年代です。

不安が消えてから動こうとすると、たぶん一生動けません。不安と並走しながら、小さく準備を始める。その最初の一冊として、時間とお金の使いどきを考えさせてくれる『DIE WITH ZERO』を置いておきます。

📖 『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』 ビル・パーキンス

📕 Amazonで詳細を見る 🛍 楽天で詳細を見る

コメント

タイトルとURLをコピーしました