仕事も人間関係も、特別な事件があるわけではない。それなのに、毎日なんとなく疲れていて、悩みが頭から離れない——。樺沢紫苑氏の『ストレスフリー超大全』(ダイヤモンド社・2020年・344ページ)は、そんな「あらゆる悩み・不安・疲れ」への対処を、精神科医が科学的ファクトと「今すぐできるTo Do」のセットで並べた一冊です。30万部を超えるベストセラーで、著者が3年をかけて書いた集大成とされています。
「悩み別の辞書」として使う本
構成は、序章で「すべてのベースとなる解決法」を5つ示したあと、人間関係・プライベート・仕事・健康・メンタル・生き方の順に、全部で50個ほどの悩みに答えていく形です。「嫌いな人との付き合い方」「仕事が楽しくない」「寝ても疲れが取れない」——目次から自分の悩みを探して、そこだけ読めばいい。頭から通読する本というより、悩んだ時に引く辞書だと思ってください。

不安は、行動で消える
序章の最初に置かれているのが「不安を行動で取り除く」です。不安は何もしないと増え、行動すると減る。これは私の体感とも完全に一致します。会社員の頃、出勤前はかなり精神的に辛い時期がありました。それでも「行ったらどうにかなる」と自分を鼓舞して職場に向かう。実際、行ってしまえば人とのやり取りが生まれ、物事が進み、時間も早く過ぎて、「辛い」という気持ちは勤務中には続かないんです。ある意味開き直りですが、「行けばプラスの面がある」と分かっていたから動けた。あれは今思えば、人とのつながりで出るオキシトシンにも助けられていたのかもしれません。動く前がいちばん苦しく、動き出せば軽くなる——不安とはそういう仕組みなのだと、本書は種明かししてくれます。
その「行ってしまえばどうにかなる」が、いよいよ通用しないかもしれないと思ったのが、会社を辞めるときでした。出勤の辛さは行ってしまえば消えても、辞めた先には行く場所そのものがない。だから私は、辞めるきっかけを自分の側で作ることにしました。まず資格を取り、安心材料を一つ増やしてから、決意する。不安が消えるのを待つのではなく、不安を減らす行動を先に置いた形です。実際に辞めてみると、関係者のサポートや、自分が動いた分だけ生まれた縁に、どうにか導かれてきた気がします。行動が先で、答えは後から来る。本書が序章の最初に「不安を行動で取り除く」を置いた理由は、あのとき身をもって確かめた気がします。
他人と過去は、変えられない
人間関係の章の核は、「変えられないものを変えようとすると、ものすごいストレスを受ける」という原則です。樺沢氏は「1トンの巨大な石を一生懸命動かそうとしても、ただ疲れるだけ」とたとえます。私にも、身につまされる相手がいます。お金のことでいつも困っている友人に、つみたてNISAでコツコツ増やす仕組みを伝えたことがあるのですが、興味を示すものの、一向に行動には移さない。そして同じことで嘆いている。結局、他人は変えられないんです。私にできるのは、相手のためになりそうな情報を差し出すところまでで、決断するかどうかは相手の課題。「できることをしたら、それ以上はできない」と諦める——関係を壊してまで強く言うべきことは、実はそんなに多くありません。

土台は睡眠・運動・朝散歩——寝つきの悪い私の場合
本書がすべての土台に置くのが、睡眠(最低6時間)・運動(週150分)・朝散歩です。正直に言うと、私は寝つきが悪いタイプで、この章は耳が痛い。枕を少し高くして鼻の通りを良くしたり、右向きで寝てみたり、細かい工夫でしのいでいます。日中に外で体を動かした日は明らかに寝つきやすいので、そこは本書の言う通り。眠気が来た日は素直に仮眠も取りますが、取りすぎると夜眠れなくなるトレードオフもあって、いつでもどこでも眠れる人が心から羨ましい。寝る前にYouTubeを聞いてしまう悪癖も、本当は律するべきなんでしょう……。完璧にはほど遠くても、「睡眠を疎かにすると全部が崩れる」という順番だけは、体で理解しているつもりです。
運動のほうは、内訳がはっきりしています。ほぼテニスです。週に1〜2回、全身を使う競技を続けているだけで、あとは近所の買い物で自転車に乗るくらい。ジムには通っていません。それでも日常生活で疲れを感じる場面はあまりなく、スポーツを通じて筋肉もある程度できあがっているので、これ以上作る必要性は今のところ感じていない。本書は運動を時間の目安で示しますが、私の実感では、量そのものより「続けられる種目が一つあるか」のほうが効いている気がします。
日光については、逆のパターンもはっきりしています。天気が悪い日や疲れている日は1日中家から出ないことも多いのですが、そういう日の夜は、決まって少し寝つきが悪い。ほかに思い当たる理由がありません。朝でなくてもいいので、1日のどこかのタイミングで外に出て日光を浴びた日は、やはり体調が優れています。そこに運動が加わった日がいちばん。本書の言う朝散歩をきちんと習慣化できているわけではありませんが、「今日はまだ外に出ていない」と気づいたら用事を作って出る、くらいの折り合いはつけられるようになりました。
読むときの注意
網羅的な本なので、一つひとつの項目は正直あっさりしています。深掘りしたい悩みは、各項目で紹介されている参考書籍へ進む二段構えがいいと思います。また、樺沢氏の他の著書を読んでいる人には重複を感じる部分もあるはずです。だからこそ、通読して感心する本ではなく、「悩んだ時に開いて、To Doを一つ持ち帰る本」として棚に置いておくのが正解だと思います。

今日からできる一歩
- 朝、起きて1時間以内に15分だけ外を歩いてみる(本書の代名詞「朝散歩」)。
- 不安が浮かんだら、考え込む前に「関係する小さな行動」を一つだけ起こす。
- いまの悩みを一つ選び、この本の該当する章だけを読む(通読しなくていい)。
おわりに
ストレスを消すことはできなくても、翌日に持ち越さないことは技術でできる——この定義を知るだけでも、ずいぶん気が楽になります。頑張り方を増やすのではなく、リセットの仕方を整える。『ストレスフリー超大全』は、疲れた人の本棚の「保健室」のような一冊です。
📖 『精神科医が教える ストレスフリー超大全 人生のあらゆる「悩み・不安・疲れ」をなくすためのリスト』 樺沢紫苑



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