『読書する脳』毛内拡|本を読むという行為が、脳に何を起こしているか (2025)

『読書する脳』毛内拡 表紙 学び・自己成長
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『読書する脳』は、「本を読んでいるとき、私たちの頭のなかでは、いったい何が起きているのか」を、脳科学の視点から解き明かす本です。著者は、お茶の水女子大学で脳を研究する、神経生理学者の毛内拡氏。なぜ紙の本で読んだ内容は記憶に残りやすいのか。なぜ読書をすると「頭が良くなる」のか。当たり前にやってきた読書という行為を、改めて科学のレンズで見つめ直します。

動画やSNSで、情報はいくらでも手に入る時代です。それでもなお、「読書」にしかできないことがある——本書は、そう教えてくれます。文字を追い、頭のなかで映像を組み立て、自分自身と対話する。読書は、受け身に見えて、じつは脳をフルに働かせる、能動的な営みなのです。

読書は、ただ情報を受け取る行為ではない。
文字を絵に変え、想像で補い、自分と対話する——脳をフル回転させる、最高の運動だ。

著者と本の立ち位置

著者の毛内拡氏は、脳のしくみを研究する神経生理学者です。専門的な脳科学の知見を、一般の読者にも分かるよう、やさしくかみくだいて伝えることで知られています。本書も、難解な専門書ではなく、「読書好きが、自分の頭のなかで起きていることを知って、もっと読書を楽しめるようになる」ための一冊です。

うれしいのは、本書を読むと、ふだんの読書の意味が、少し変わって見えてくることです。なんとなく良いと思っていた読書習慣に、「だから効くのか」という科学的な裏づけが与えられる。すると、本を開くのが、これまで以上に少し楽しみになります。

読書しているとき、脳で何が起きているか

本書がまず描くのは、読書中の脳の、意外なほど複雑な働きです。私たちは、文字という記号を見て、それを音や意味に変換し、さらに頭のなかで、情景やイメージを組み立てています。漢字と仮名が混ざった日本語の文章を、すらすら読めること自体、脳の高度な処理の賜物なのです。

とくに面白いのが、「紙の本のほうが記憶に残りやすい」という話です。紙の本には、「あの内容は、右ページの下のあたりにあった」というような、空間的な手がかりがあります。脳は、その物理的な位置の感覚も一緒に使って、内容を覚えている。だから、つるりと流れていく画面より、紙のほうが、記憶に引っかかりやすいのではないか——本書は、そう説明します。

本を読む人のページから想像のイメージが光となって立ち上がる様子。読書中に脳がフル回転するイメージ

読書がメンタルを整える——「反芻思考」を鎮める

本書のなかでも、とくに印象に残るのが、読書と心の健康の関係です。私たちの脳には、何もしていないとき、ぼんやりしているときに活発になる「デフォルトモードネットワーク」という回路があります。これは、考えごとや反省に役立つ一方で、暴走すると、過去の失敗を何度も思い返す「反芻思考」を生み、不安や気分の落ち込みにつながると言われます。

ここで効くのが、読書です。物語や文章にぐっと没頭しているあいだ、脳は、その回路の過活動から解放されます。ぐるぐると同じ悩みを巡る代わりに、本の世界に意識が向く。だから読書は、頭を休め、精神的な疲れを防ぐ効果も期待できる、と本書は語ります。さらに、物語の登場人物に感情移入することで、他者への共感力や社会性まで育つ——読書は、知識だけでなく、心のしなやかさも養うのです。

読書に没頭する人の頭のまわりで渦巻く不安な考えが静まっていく様子。読書が反芻思考を鎮めるイメージ

明日から試せること

  • 一日のうちに、スマホを別の部屋に置いて、紙の本だけに向き合う時間を、短くてもいいので作ってみる。
  • 気分がぐるぐると落ち込みそうなときこそ、あえて本を開いて、物語の世界に意識を逃がしてみる。
  • 読み終えた本の内容を、一度、自分の言葉で短く要約してみる。脳に「大事な情報」として刻まれやすくなる。

ポイントは、「ながら読み」をやめて、いったん没頭すること。集中して読むほど、脳は深く働き、記憶にも心にも、しっかり効いてきます。

読むときに気をつけたいこと

気をつけたいのは、脳科学には、まだ分かっていないことも多い、という点です。本書も、断定ではなく「こう考えられている」という形で語る場面が多くあります。一つひとつを絶対の真実として受け取るより、「いまの科学では、こう説明されている」という温度感で読むのが、ちょうどいいでしょう。

また、紙の本の良さが強調されますが、電子書籍が悪い、という単純な話ではありません。手軽さや検索のしやすさなど、電子ならではの利点もあります。大事なのは、目的に応じて使い分けること。本書は、紙を見直すきっかけをくれますが、どちらか一方を切り捨てる本ではない、と受け取るのがよさそうです。

こんな人に効きそうか

ふだんから本を読むのが好きで、「自分の頭のなかで何が起きているのか」を知りたい人。あるいは、最近、動画やSNSばかりで、じっくり読書する時間が減ってしまったと感じている人。そういう人に、もう一度、本を開きたくなる理由をくれます。

逆に、専門的な脳科学を、深く学術的に学びたい人には、物足りないかもしれません。これは、研究書ではなく、読書という身近な行為を入り口に、脳の面白さを伝えてくれる、やさしい入門書だからです。

読み終えて

明るい窓辺で紙の本に集中して読む人。スマホを置いて紙の本に向かう静かな時間のイメージ

読み終えて残るのは、「読書は、思っていたよりずっと贅沢な脳の使い方だった」という、静かな驚きでした。文字を追いながら、想像し、感じ、自分と対話する。その全部を、私たちは本を読むたびに、何気なくやってのけている。それを知ると、一冊の本に向かう時間が、少しだけ豊かに思えてきます。

まずは今日、スマホを置いて、紙の本を数ページだけ開いてみる。その静かな時間が、脳にも心にも、思いのほか効いてくれます。

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