朝2〜3時間が勝負|集中力×時間で仕事量を倍にする神・時間術

一日の終わりに手帳を見返すと、会議もこなした、メールも返した、頼まれた資料もつくった。それなのに「今日いちばんやりたかった仕事」だけが手つかずで残っている。足りないのは時間なのか、それとも自分の要領なのか。
精神科医の樺沢紫苑氏が書いた『神・時間術 脳のパフォーマンスを最大まで引き出す』(大和書房、2017年)は、ここで少し違う答えを出します。やることを減らすのではなく、並べ替える。抱えている量はそのままでも、置く時間帯を変えるだけで一日の終わり方は変わる、という主張です。
仕事量は「時間×集中力」で決まる
本書の土台は、一本の式に集約されます。仕事量=時間×集中力。私たちはふだん、仕事の量を時間だけで測っています。「3時間かかる仕事」という言い方がまさにそれです。けれど同じ3時間でも、集中力が2倍なら仕事量は2倍になる。集中の切れた3時間は、机に座っていただけの3時間で終わる。
この式が効いてくるのは、掛け算の片方が動かせないからです。1日は24時間しかなく、そこは誰にも増やせません。動かせるのはもう一方、集中力のほうだけ。だから本書は「時間をつくる話」ではなく、ほぼ全編が「集中力をどこに置くか」の話になっています。副題に「脳のパフォーマンス」と入っているのは、そういう理由です。

朝の2〜3時間が、脳のゴールデンタイム
では集中力はいつ高いのか。樺沢氏の答えははっきりしていて、起床後の2〜3時間です。睡眠のあいだに脳が情報を整理するため、朝は作業スペースが片づいた状態で立ち上がります。本書はこの時間帯を「脳のゴールデンタイム」と呼び、ここに何を置くかで一日の総量が決まると書いています。
朝の1時間は、夜の1時間の4倍
本書はこの差を「朝の1時間は夜の1時間の4倍に相当する」という言い方で表します。数字そのものは体感を伝えるための表現ですが、思い当たる節はあるはずです。夜10時に書いたメールを翌朝読み返して直したくなる、という経験。あれは夜の自分の能力が低いのではなく、一日ぶんの判断で消耗しきったあとに難しい作業を置いただけ、というのが本書の見立てです。
だからゴールデンタイムに置くべきは、集中力を要する仕事に限られます。文章を書く、企画を考える、数字を組み立てる。メールチェックや事務処理のような、集中力をあまり使わない仕事はあえて午後に回します。同じ作業量でも、順番を入れ替えるだけで一日の産出が変わる——これが本書の中心的な処方です。
集中は15・45・90でできている
もうひとつ実務的なのが15・45・90の法則です。深い集中が続くのはおよそ15分、45分は学校の授業やサッカーの前半と同じ長さ、そして90分が成人の集中の限界。同時通訳者が10〜15分で交代すること、テレビのCM間隔がおよそ15分であること、睡眠周期が90分であること。身のまわりの区切りが、だいたい同じ数字に落ち着いているという指摘です。
ここから出てくる指示は、疲れてから休むのではなく、疲れる前に休む。集中を使い切ってから休憩すると回復に時間がかかるが、15分や45分の区切りで小さく切っておけば、集中の水位はそれほど下がりません。あなたの一日で、いちばん頭が冴えているのはいつでしょう。そこに何を置いているか思い出してみると、この本の言いたいことはかなり具体的に届きます。

午後と夜は、リセットで作り直す
朝がすべてなら、午後以降は諦めるしかないのか。本書がおもしろいのはここからで、第3章以降は「下がった集中力をどう作り直すか」に紙幅を割きます。昼食後の眠気には短い仮眠、午後の失速には場所を変える、あるいは体を動かす。一日を朝・昼・夜の三つのブロックに切って、それぞれの入口でリセットをかける形になっています。
運動と睡眠も、時間術の一部
第4章で扱われるのは運動と睡眠です。時間術の本に運動と睡眠の章があるのは奇妙に見えますが、式に戻れば筋が通っています。運動は下がった集中力を戻す手段であり、睡眠は翌朝のゴールデンタイムの原資。時間を増やせない以上、掛け算のもう一方を仕込む作業こそが時間術なのだ、という理屈です。このあたりは同じ著者の『脳を最適化すれば能力は2倍になる』や『ストレスフリー超大全』と地続きで、脳内物質の話を実務の手順に落とし込んだのが本書、と読むと位置関係が見えやすくなります。
私は、簡単な仕事から片づけている
正直に書いておくと、私自身の一日は本書の推奨とかなり違います。集中できる時間に何をやるかを、特に決めていません。勢いのまま家事に手を出して部屋をきれいにしてしまう日もあるし、仕事に向かうときも、できることから順に片づけていきます。簡単な仕事から手をつけ、そのあとで重要な仕事に着手することが多い。
最初に重要なことをやれと勧める本は多く、本書もその一冊です。それでも私が逆をやるのは、重い仕事から始めると細かい仕事まで辿り着けない可能性があるからでした。順番に終わらせていけると、気持ちが楽になります。この「気持ちが楽になる」は生産性の話とは別軸ですが、続けるための条件としては無視できないと思っています。
本の理屈と、自分の理屈
これは本書への反論ではありません。樺沢氏の理屈は通っています。ゴールデンタイムは有限で、そこに事務作業を流し込むのは、いちばん高い席に荷物を置くようなもの。一日で最も高価な2〜3時間を安い作業で埋めれば、掛け算の答えは小さくなる。理屈としては、こちらのほうが強い。
一方で私のやり方にも理屈はあります。小さく完了を積むと着手のハードルが下がり、その勢いのまま重い仕事に入れます。両者が食い違うのは、最適化している対象が違うからです。本書が最大化したいのは一日の産出量、私が下げたいのは着手の心理的コスト。だとすれば折衷もありえて、朝の最初の15分だけ簡単な仕事で助走をつけ、残りのゴールデンタイムは重い仕事に明け渡す、という置き方になります。やることを減らさずに並べ替えるという本書の発想は、タスクの絶対量を削る『エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする』とも、忙しさの感覚そのものを扱う『多忙感』とも、噛み合う場所が違います。

今日からできる一歩
本書の発想を動作に落とすなら、入口はこのあたりです。続かないときの立て直し方や職種ごとの当てはめは、本文がもっと丁寧に踏み込んでいます。
- 起床から2時間のうち、30分だけを「集中枠」として空ける。何を入れるかは前夜に1つだけ決めておく。長さより、その枠にメールと通知を入れないことのほうが効く。
- 集中を要さない作業を、まとめて午後に寄せる。メール返信、経費処理、資料の体裁直し。散らばっていたものを一か所に集めるだけで、朝の枠が空く。
- 45分たったら、疲れていなくても席を立つ。水を汲む、窓を開ける、階段を一往復する。疲れてからでは戻すのに時間がかかる、というのが本書の一貫した立場です。
読む前に知っておきたいこと
「朝の1時間は夜の4倍」のような数字は、厳密な測定値というより体感を伝えるための表現です。また本書が想定しているのは、朝をある程度自分で設計できる働き方です。早番のシフト勤務や小さな子どもがいる家庭では、そのまま当てはまりません。その場合は「朝」を「自分の一日で最も頭が冴えている時間帯」と読み替えると、式のほうは生き残ります。
おわりに
この本を読んでから、私は自分のやり方を捨てていません。簡単な仕事から片づける習慣も、たぶんこれからも続けます。それでも一つだけ変わったのは、朝の2〜3時間を「たまたま早く起きた時間」ではなく、一日でいちばん高価な資源として意識するようになったことでした。使い方を変えなくても、値札が見えているかどうかで扱いは変わります。あなたの明日の朝、いちばん高いその2〜3時間には、何が置かれているでしょうか。
TSUME
ブログ運営者
TSUMEノートは、人生の4本柱(人間関係・健康・お金・学び)を少しずつ良くするための読書メモです。アパレル業界で約20年、店頭のアルバイトから店長、最大8店舗のスーパーバイザーまで経験し、40代でフリーランスになりました。独立を視野に古物商の資格も取り、いまはテニス関連の仕事とファッションのスタイリングをしています。30代後半から続けている読書が、読んでくれた方のヒントになればうれしいです。
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