ギバーが底辺と頂点に分かれる理由|GIVE & TAKE アダム・グラント

頼まれごとを断らずに引き受け続けた月の終わりに、自分の仕事だけがまるごと残っている。人には親切にしたほうがいいと分かってはいても、実際にやってみると割を食っているのは自分ではないか、という疑いが消えない。与える人が得をするという話は、たいてい精神論として語られるので、余計に信じにくくなります。
アダム・グラント氏の『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』(楠木建氏 監訳、三笠書房、2014年)は、その疑いを数字と事例で扱った本です。結論は「与える人が成功する」だけでは終わりません。与える人は、成功の下のほうにも大量にいる。この記事では、その分かれ目がどこにあるのかに絞って整理します。

人は、与え方で3つに分かれる
著者はウォートン・スクールの組織心理学者です。人間関係における人の振る舞いを、性格診断ではなく「与えることと受け取ることの収支」という一点で分類したのが本書の出発点になっています。
ギバー、テイカー、マッチャー
ギバーは、見返りを細かく計算せずに相手に与える人。テイカーは、まず自分の取り分を確保しにいく人。マッチャーは、貸しと借りの帳尻を合わせようとする人です。世の中でいちばん多いのはマッチャーで、私たちの多くは「してもらったら返す、してあげたら返ってくるはず」という前提で日々の関係を運んでいます。3つの違いは能力でも善悪でもなく、初期設定としてどちら側から動くかの差にすぎません。
タイプは性格ではなく、場面で切り替わる
本書を読んで意外だったのは、同じ人物が場面ごとにタイプを変えるという指摘でした。家庭ではギバーでも、交渉の席ではテイカーになる。取引先には与えるのに、社内ではきっちり帳尻を合わせる。だから「自分はギバーかテイカーか」を診断しても、あまり意味がありません。問うべきなのは、どの相手に対して、どの設定で入っているか、のほうです。
成功のはしごの、いちばん下といちばん上にギバーがいる
本書でいちばん引用される主張が、ここにあります。成果の低いほうを見ていくとギバーが目立つ。ところが成果の高いほうを見ても、やはりギバーが目立つ。テイカーとマッチャーは、その中間に収まる。同じ「与える人」が両端に分かれてしまうのだから、与えるかどうかは分かれ目ではないということになります。
| タイプ | 与え方 | 成功のはしごでの位置 |
|---|---|---|
| 自己犠牲型ギバー | 誰にでも、無制限に | いちばん下 |
| テイカー | もらう方が多い | 中ほど |
| マッチャー | もらった分だけ返す | 中ほど |
| 他者志向型ギバー | 相手と形を選んで与える | いちばん上 |
下に沈むのは、自己犠牲型のギバー
下側にいるのは、他人の利益を追う一方で自分の利益をまったく勘定に入れないタイプです。時間もエネルギーも先に相手へ渡してしまい、そのツケを自分の成果と体力で払う。テイカーから見れば、いちばん効率よく回収できる相手でもあります。本人に悪いところがないぶん、周囲もそれを問題として扱わないので、消耗は静かに進みます。
上に届くのは、他者志向型のギバー
上側にいるギバーは、受け取るより多くを与えるという点では同じです。違うのは、自分の利益を見失わないこと。そのうえで、いつ、どこで、どのように、誰に与えるかを自分で決めています。誰にでも同じだけ与えるのではなく、配分に判断が入っている。与える量の問題ではなく、与え先を選ぶ判断が入っているかどうかが、両端を分けているというのが本書の答えです。
与えたぶんが返ってくるまでには、時間差がある
ギバーが不利に見えるのは、収支を短い期間で締めるからです。四半期で見れば、自分の案件を優先したテイカーのほうが数字は出ます。本書が扱っているのは、そのあとに起きることのほうです。与えた相手が別の場所で名前を出す、困ったときに手を貸してくれる人の数が違う、ギバーの周囲にはギバーが集まりやすい。こうした効果は、本人が動いていない時間にも進みます。
評判は、遅れて回収される
同じ著者の『ORIGINALS』と読み比べると、グラント氏の書き方の癖が見えてきます。どちらも、直感的に不利に見える振る舞いを、時間軸を伸ばして評価し直す構成になっている。与えることも、人と違うことをすることも、短期の損益計算では説明がつかない。経営者の言葉としてこれに近いことを述べているのが『心。』稲盛和夫で、根拠の立て方はまったく違うのに、結論だけが重なります。

時間をどこに配っていたか
8店舗を見ていた頃、回る頻度は変えませんでした。関西も関東もアウトレットも、月に1、2度は必ず顔を出す。スタッフと話す時間は、店の調子に関係なく要るからです。偏らせたのは、その先の時間の使い方でした。売上が取れている店は運営がうまく回っていて、信頼できるスタッフも多い。そこでは様子を見て、必要なことだけ話して次に移る。低迷している店では、原因の追求から対策まで、店長と何時間でも話し込む。訪問の回数は均等に、話し込む深さは寄せる。それがあの頃の配分でした。
ただ、単純な選択と集中でもありませんでした。良い店も放置しすぎるとスタッフのやる気が下がるので、そこには常に気を配る必要がある。配分を決めることと、見放すことは別だという感覚は、いまでも残っています。
返ってきたのは、期待していなかったところから
店長時代に知り合ったお客様に、お医者さんがいます。売り場での会話から始まり、一緒にマラソンに出たり食事をしたりするうちに、自然と友人と言える関係になりましたが、それなりの年月をかけて築けた関係です。昔いっしょに働いていたスタッフからも、退職して何年経っても、年に1回くらいは誰かしらから連絡や誘いが来ます。どちらも見返りを見込んで作った関係ではありません。見返りを求めずにギブの精神で歩いていると、思わぬところで幸運が巡ってきたり、チャンスが訪れたりする。返ってくる場所は、たいてい予想の外でした。
テイカーに、こちらも損得で返すべきか
本書の処方箋のひとつは、テイカーには自分も損得勘定に切り替えて向き合え、というものです。ここは自分の結論と少し違います。テイカーと呼ばれる相手でも、普通に話ができるなら、ある程度懐に入って人間性を理解し、寄り添うことで関係が築けることのほうが多かった。表面的な部分だけで判断して距離を置くと、そのマインドは相手にも伝わりますし、関係が良くなることはほぼありません。ほとんどの人は良い面も悪い面も両方を持っているので、相互理解に努めれば、相手も親切に接してくれる傾向があります。ただし例外はあって、話が通じない相手とは、しっかり距離を置いて付き合うほうが望ましいと思っています。
うまくいかなかった例も、もちろんあります。派遣で入ったスタッフが、店の商品を万引きしていたことがありました。心を割って話す機会を何度も作りましたが、根の部分が固まっている相手には、寄り添いが届かない。最終的には辞めてもらいました。本書の「テイカーには損得で向き合え」は、こういう相手に対する話なのだと、いまは読んでいます。ただそれは、寄り添ってみた後で分かることです。先に決めつけると、届いたはずの相手まで失います。

今日からできる一歩
他者志向型に寄せる手順を動作にすると、入口はこのあたりです。
- 直近1か月で「与えた相手」を書き出す。名前を並べるだけでいい。同じ名前ばかりが並んでいたら、配分の判断が働いていない合図です。
- 与える形を1つに固定する。紹介する、情報を回す、30分だけ相談に乗る。何でも引き受けるのをやめて、自分が消耗しない形だけ残す。断りやすくなります。
- 返ってこない相手を1人だけ決めて、量を落とす。関係を切る必要はありません。与える頻度を下げるだけで、自己犠牲型から一段抜けられます。
読む前に知っておきたいこと
382ページあり、事例の分量が多い本です。結論だけ知りたい人には長く感じられます。もう一つ、扱われている事例はアメリカの企業や大学が中心で、転職と評価の流動性が高い環境が前提になっています。同じ会社に長くいて、評価者が変わらない職場では、返ってくるまでの時間差がさらに伸びる可能性がある。それから、本書は「与えれば報われる」を保証していません。与え方の設計を間違えたギバーが下に沈むという話が本の半分を占めます。人づきあいそのものを整理し直したい人には、『君に友だちはいらない』瀧本哲史のほうが直接的です。
おわりに
この本を読んだあとで変わるのは、頼まれごとを受けるか断るかではありません。受けると決めたときに、誰にどれだけ渡しているかを数えるようになることです。与えるのをやめる必要はない。数えていないまま渡し続けるのを、やめればいい。判断が一つ増えるだけで、同じ行動の意味が変わります。
📖 『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』 アダム・グラント/楠木建 監訳
三笠書房/2014年1月25日/382ページ/ISBN 978-4-8379-5746-1
TSUME
ブログ運営者
TSUMEノートは、人生の4本柱(人間関係・健康・お金・学び)を少しずつ良くするための読書メモです。アパレル業界で約20年、店頭のアルバイトから店長、最大8店舗のスーパーバイザーまで経験し、40代でフリーランスになりました。独立を視野に古物商の資格も取り、いまはテニス関連の仕事とファッションのスタイリングをしています。30代後半から続けている読書が、読んでくれた方のヒントになればうれしいです。
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