コミュ力は聞く力だった|超コミュ力 田村淳

『超コミュ力』(田村淳)の要約図。肯定から入る(カフェで相手の話を笑顔で受け止める)、うなずきと質問(相手の好きなものの話に耳を傾ける)、嫌と言っていい(降ってくる頼まれごとを傘で受け流す)の3つを同じ人物のイラストで紹介。下に「うまく話すより、相手が話しやすい場を先につくる」。

人と話したあとで、こちらばかり喋っていたと気づくことがあります。沈黙を埋めようとして言葉を足し、相手のことは何も聞けていない。コミュニケーションが苦手だという感覚は、たいていこのあたりから来ます。

田村淳氏の『超コミュ力』(すばる舎、2023年)は、その苦手意識を「単なる誤解」として扱う本です。必要なのは話術ではなく、相手に気持ちよく話させる技術だという立場で、5章・35項目が並びます。

本書の考え方を、日々の会話に引き寄せると、私はこう受け取れます。

コミュ力は、自分がうまく話す力ではない。
相手が話しやすい場を、こちらが先につくる力である。

コミュ力の正体は、話す力ではなかった

本書は冒頭で、コミュ力と話術を切り離します。

第1章の最初の項目が「コミュ力に『上手に話す力』はいらない」です。流暢に喋れる人ほどコミュ力が高い、という前提をここで外します。話が上手いことは、会話において必須の道具ではないという立場です。

田村氏は、人前で一方的に情報を伝えることと、人と心を通じ合わせることを分けて説明します。似ているので一括りにされやすいけれど、使う技術が違うという整理です。

この区別は実務でも効きます。会議の説明が上手い人が、個別の面談では話が噛み合わないことがある。別の技術だと分かっていれば、鍛える場所を間違えません。

そう置き直すと、苦手意識の原因が「話す技術の不足」ではなくなります。直すべき場所が、話す側から聞く側へ移るのです。

「コミュ力お化け」は、必ず肯定から入る

本書が繰り返すのは、否定から入らないという一点です。

入口は「いいね」の一言

「いやいや」「でも」「そんなこと言ったって」から話し始める人は少なくない、と田村氏は書きます。対して、田村氏が出会った「コミュ力お化け」は必ず肯定から入ったそうです。

相手が部下であれ子どもであれ、意見が出たら「いいね」で受ける。田村氏は良いコミュニケーションを太極拳にたとえ、「相手の力(話)を利用しながら、話を広げていく」と書いています(田村淳『超コミュ力』すばる舎)。

田村淳式「SNS」で、相手の話を進める

「いいね」に続ける合いの手として、本書は田村氏いわく「SNS」を挙げます。すごい・なるほど・そうなんだ、の頭文字です。

三つしかないので、会話の最中でも思い出せます。覚える量が少ない道具のほうが、実際には使われる。

出版社の紹介文は、本書の射程を「話し方」「聞き方」「会話」「愛嬌」「気配り」「人間関係」と並べています。笑顔や表情の使い分けといった、言葉になる前の部分まで項目になっているのが特徴です。

窓辺の無垢材のテーブルで、リネンのシャツの人が生成りのノートに手を添えて相手の話を聞いている手元

聞き方は、うなずきと質問でできている

第1章の後半から、話は聞く側の動作に移ります。

うなずきは、話の区切りに置く

本書には「うなずき」の項目が二つ続けて置かれています。意識すること、そしてそのコツ、という順です。

やみくもに頷くのではなく、相手の話の区切りに合わせる。動作の置きどころまで指定しているのが、この本の具体性です。

質問は、相手の興味を探すために使う

第1章の最後は「質問力を磨く」と「人に質問するときに大切な4つのこと」で締まります。第2章の入口も「相手の興味・関心を知る」です。

質問は沈黙を埋める道具ではなく、相手が話したい領域を探す道具として置かれています。初対面の項目で挙がる「○○○棒」も、答えやすい小さな問いから入るという同じ発想です。

この順番は、自分の経験にも当てはまります。

接客の仕事は、ほとんどが雑談から始まります。お客様と距離が一気に縮まるのは、会話のキャッチボールが急に進んだときでした。きっかけは趣味や共通点、あるいはお客様の得意な分野を私がたまたま知っていたこと。そこから信頼してもらえることが多くありました。

関心事が分からないときは、身につけているものを手がかりに、さりげない質問を重ねます。何度か聞くうちに、お客様が本当に話したい話題にたどり着く。特に意識していたわけではありませんが、私の経験ではこれが最も効く方法でした。

丁寧に、謙虚に聞く。その節度さえ守れば、質問されて嫌な気持ちになる人はあまりいません。

嫌なことは、嫌だと言ったほうが関係が続く

肯定から入る本ですが、我慢を勧めてはいません。

第2章には「たまには『嫌です』と言ったっていい」、第5章には「『言いにくいこと』を言うためのコミュ力」が置かれています。好かれるために波風を立てないのではなく、自分の立場を表明したほうが関係は続くという立場です。

副題にある「好きな人だけに好かれる」は、ここに掛かっています。全員に好かれることを目標から外すから、言いにくいことを言う余地が生まれる。

生成りのニットの人が胸に手を当て、差し出された書類に手のひらを向けて穏やかに断っている手元

第4章は、相手別の処方になっている

後半で、本書は相手ごとに項目を分けます。

第4章に並ぶのは「上の人から可愛がられる技術」「組織、上司とのコミュニケーション」「謝罪するときの3つの鉄則」「部下とのコミュ力」、そして「パートナーと良い関係を保つコミュ力」「子どもとのコミュ力」「両親とのコミュ力」です。

同じ技術を、立場の違う相手にどう当てるかという構成になっています。上司向けと部下向けが別項目になっているのは、使い分けが要るという前提があるからでしょう。

「100%面接に合格してきた、ちょっとした技術」という項目も第4章です。採用の場面まで同じ章に入っているのは、本書が会話を「場をつくる技術」として扱っているからだと思います。

「肯定から入る」だけでは、進まない場面がある

ここは、自分の経験と食い違いました。

本書の処方は、肯定を入口にすれば会話は前に動くというものです。ただ、肯定を重ねた結果、話が一歩も進まなかったことが私にはあります。

肯定を重ねて、動かなかった話

店長をしていたころ、契約社員やパートのスタッフの中に、接客がどこか上の空の人がいました。取り置きの期間、商品の説明、発売の時期。お客様に不正確なことを伝えてしまい、あとから店として謝罪と対応に追われる。そういうことが何度か続きました。

私は頭ごなしに否定せず、まず本人の言い分を受け止めてから、ルールを守ってほしいと話すようにしていました。本書の言う「いいね」に近い入り方です。それでも話は届かず、振る舞いは変わりませんでした。最終的には辞めてもらうことになりました。

仲間やお客様を思いやる気持ちが本人の側にないとき、こちらがいくら肯定から入っても、会話は一歩も前に進みませんでした。

いまは、条件付きでこう読んでいる

読み直すと、本書の「いいね」は、相手が意見や提案を出してくれた場面への反応として書かれています。出てきたものを否定で潰さない、という話です。

つまりこの処方は、何かを差し出してくれる相手に向けたものだと、いまは読んでいます。相手がまだ何も出していない場面では、肯定の前に質問が要る。第1章が「質問力を磨く」で終わっているのは、たぶんそういうことだと思います。

支えは、一つの場所に置かない

第3章で、話は技術から支えに変わります。

「支えがあるから強くなれる」という項目で、本書はコミュ力を自分を支える力として扱います。田村氏自身、オンラインコミュニティ「田村淳の大人の小学校」を立ち上げるなど、居場所を複数持つ側の人です。

第5章の「聞いてくれる人が居場所をつくる」も同じ線上にあります。聞ける人の周りに場所ができる、という順番です。

朝の光の入る部屋で、無垢材のテーブルを囲みカップを手に話に耳を傾ける人たちの手元

今日からできる一歩

本書の技術を動作に落とすと、入口はこのあたりです。

  1. 否定の口癖を1つだけ封じる。「いやいや」と「でも」のうち、自分がよく使うほうを数えてみる。言い換え先は「いいね」でいい。
  2. 相槌を3つに絞る。すごい、なるほど、そうなんだ。種類を増やすより、確実に出せるほうが効きます。
  3. 初対面用の小さな質問を1つ用意しておく。答えが短くて、誰でも持っている話題。本書の「○○○棒」はその一例です。

読む前に知っておきたいこと

224ページに35項目で、1項目あたりが短く、文字も大きい本です。体系的な理論や研究の裏づけを求める人には、物足りなく感じられます。

事例は芸能とテレビの現場が中心で、初対面でも会話が成立する前提の環境です。同じ人と毎日顔を合わせる職場では、肯定の効き方も変わってきます。

もう一つ、本書は聞く側の技術に寄っています。人前で話す場面そのものを鍛えたい人には、方向が違う本です。

おわりに

この本を読んだあとで変わるのは、話す内容ではありません。相手が話し始めたときに、自分が何をしているかを見るようになることです。

うなずきを一つ置く、否定を一つ減らす、質問を一つ足す。どれも小さいのに、会話の主役が入れ替わります。

人との関係を、与え方の側から考えたい方には、『GIVE & TAKE』アダム・グラントもつながります。聞く技術と、与える配分。どちらも相手を見る量で決まります。

📖 『超コミュ力』 田村淳

すばる舎/2023年10月20日/224ページ/ISBN 978-4-7991-1156-7

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TSUMEノートは、人生の4本柱(人間関係・健康・お金・学び)を少しずつ良くするための読書メモです。アパレル業界で約20年、店頭のアルバイトから店長、最大8店舗のスーパーバイザーまで経験し、40代でフリーランスになりました。独立を視野に古物商の資格も取り、いまはテニス関連の仕事とファッションのスタイリングをしています。30代後半から続けている読書が、読んでくれた方のヒントになればうれしいです。

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