服部晋(はっとり・すすむ)は、銀座のテーラー・洋装文化研究家。日本のクラシック紳士服文化を、長年にわたり実店舗と執筆の両輪で支えてきた人物。本書(2004/PHP研究所)は、世界の紳士服の歴史・素材・仕立て・着方を、職人の視点から穏やかに語った随筆集。10年以上の沈黙を経て、SNS時代の若い男性読者にも”知る人ぞ知る“として広がっている隠れた良書。
“洋服“は記号ではなく、生地と仕立てと手入れと時間でできた、一つの工芸品——本書全体を貫くトーン。
本書の構成と、章ごとのポイント
第1章 洋服の歴史と起源
- 近代スーツの祖先は、19世紀英国のラウンジ・スーツ。乗馬服・狩猟服から、市民の日常着へと進化した経緯。
- Savile Row(ロンドン)・Napoli(イタリア)・Aoyama Tailors(日本)——世界の主要テーラー文化の系譜。
第2章 素材の話
- ウール・コットン・リネン・カシミア——素材そのものが、着心地と耐用年数を決める。
- 表記の読み方(“Super 100s”とは何か)、季節ごとの素材選び、長持ちする素材の選び方。
第3章 仕立ての話
- 既製・パターンオーダー・フルオーダー(ビスポーク)——3階層の違いと、それぞれが向く人。
- “仕立てが良い服“の見分け方: 縫い目・肩のライン・襟の返り。職人の眼で語る。
第4章 着方の話
- サイズ感・色合わせ・小物の使い方——時代の流行に流されない“クラシックの型”。
- “足元から決める“: 靴のクオリティが、全身の印象を決める。
第5章 手入れの話
- クリーニングの頻度・ブラッシング・休ませる(着用ローテーション)——服を長持ちさせる日常の習慣。
- 1着を10年着るための、ローテーション設計。
世界のメンズスタイルとの位置づけ
本書のテーマは、Bernhard Roetzel『Gentleman: A Timeless Guide to Fashion』(ドイツの現代版紳士服バイブル)、Alan Flusser『Dressing the Man』(米国紳士服の決定版)、Nicholas Antongiavanni『The Suit』、英国Esquire・GQ・Permanent Style(Simon Crompton)などと地続き。世界各国に”紳士服文化を継承する書き手“が存在し、服部はその日本版。
YouTubeで「Savile Row tailoring」「Permanent Style」「Sartorial Talks」と検索すると、英国・イタリア・日本のテーラー文化の最前線が観られる。本書を読んだ後、これら動画に進むと、世界の紳士服文化に立体的にアクセスできる。
明日からの3つの実践
1. 靴から、見直す
本書最重要のメッセージのひとつ。3万円のスーツに3万円の靴を合わせるより、3万円のスーツに5万円の靴を合わせた方が、全身の印象が劇的に変わる。
2. 服を、“休ませる”習慣をつける
毎日同じスーツを着続けると、生地が傷み、形が崩れる。2-3着のローテーションで休ませると、寿命は3倍以上。
3. 素材表記を、買う前に読む
「Polyester 70%」と「Wool 100%」では、着心地・耐用年数・季節適応性が違う。素材を意識して買うだけで、長期の満足度が変わる。
関連書と、読む順番
- 本書(まず日本人の手による穏やかな入門)
- 『Gentleman』Bernhard Roetzel(ドイツ・英国の本格)
- 『Dressing the Man』Alan Flusser(米国の決定版)
- 『The Italian Way』Massimiliano Mocchia di Coggiola(イタリア流)
読むときに、気をつけたい点
本書は“クラシックな男性服”を主軸にしている。カジュアル・ストリート・ジェンダーフリーなど現代のスタイル多様化には踏み込んでいない。“伝統的なスーツ・ジャケット文化”を学ぶための本として読むのが正解。
こんな人に合いそう
- スーツを着る仕事だが、なんとなく着ている人
- “大人の身だしなみ“を、改めて学び直したい30-50代
- 父親・夫・息子へのプレゼント本としての候補
おわりに
本書を読んでも、明日から急にお洒落になるわけではない。“服との付き合い方”が、少しだけ丁寧になる。それだけで十分。長く着られる1着を選ぶ目を養うために、本棚に置いておきたい静かな良書。



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