『夢と金』西野亮廣|夢を語るなら、お金の設計も一緒にしておこう (2023)

『夢と金』西野亮廣 表紙 お金・投資
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「夢は好きなだけ追いなさい。でも、お金の話は品がないからしない」——もしこの二つを同時にやっているとしたら、それは少し危ういかもしれません。キングコング西野亮廣氏の『夢と金』(幻冬舎・2023年)は、そこへ正面から切り込む一冊です。発売初日に10万部、約1か月で20万部を突破した話題作で、絵本『えんとつ町のプペル』やオンラインサロン運営という、著者自身の現場から書かれています。

「お金が尽きると、必ず夢は尽きる」。夢を追う人ほど、お金の設計から目をそらしてはいけない——それが本書の一貫したメッセージ。

「夢か、お金か」は、間違った問い

私たちはつい、「夢を取るか、お金を取るか」で考えてしまいます。西野氏は、この二択そのものを否定します。夢を続けるには資金がいる。お金が尽きた瞬間、どんなに素敵な夢も止まってしまう。だから「夢を追う人こそ、お金の知識と設計が要る」というわけです。日本では「お金の話=はしたない」という空気がありますが、その空気こそが夢の寿命を縮めている、と指摘します。品のよさが、夢の寿命を削ることもある。

木のテーブルの上でやわらかく灯る古いオイルランプと、そのすぐ隣に置かれた注ぎ口のついた小さなオイル壺 — 夢の灯りと、それを支える燃料

高いものが売れる場所には、理由がある

本書の第1章は「富裕層の生態系」。西野氏は〈プレミアム〉と〈ラグジュアリー〉を区別します。プレミアムは競合がいる中での“より上位”。ラグジュアリーは競合のいない“唯一無二”で、「みんなが知っているけれど、みんなは持っていない」状態です。そして、機能はすぐ比較されて値崩れするけれど、意味(物語・応援・贈与)には相場がなくなり、高い値段が成立する、と説きます。

100万円のバッグを、誰が買うのか

これは、私がセレクトショップで働いていた頃に、肌で感じていたことでもあります。店には100万円近いクロコダイルのバッグや高額なジュエリーなど、明らかに価格帯の違う一点が置いてありました。最初は「誰が買うんだろう」と思っていたのですが、富裕層のお客様は、接客の流れ次第でポンと選んでいかれる。買える人は、ちゃんと買うんです。こちらが勝手に「これは高すぎる」と上限を決めてしまうのは、お客様の可能性に蓋をすることだと学びました。珍しい高級なお茶やお菓子をお出ししていたのも、単なるおもてなしではなく、その場の“意味”を高める仕掛け。そんな一つひとつの積み重ねが、店の「格」をつくっていたのだと思います。西野氏の言う「意味を売る」を、私は売り場で見ていた気がします。

「お客さん」を「仲間」に変える

第2章は「コミュニティー」、第3章は「NFT」。西野氏は、クラウドファンディングを単なる“集金”ではなく、支援した人をプロジェクトの当事者=オーナーにする仕組みだと捉えます。コミュニティも、「仲間意識」だけでは続かない。参加した人に役割と居場所があるからこそ、人は残る。そして、人気(知られていること)と信用(応援されること)は違う——ファンは商品ではなく“人”を応援する、という視点です。その人たちは、あなたの商品を買っているのか、あなたを応援しているのか?

朝の光が差す机に、開いたノートと万年筆、芽吹いた鉢植え、重ねたコイン、折り紙の紙飛行機 — 夢とお金の設計を両立させるイメージ

読むときの注意

ひとつ補足しておくと、これはNISAや株の入門書ではありません。テーマは「稼ぎ方」、とくにファンや意味を軸にしたお金の設計です。投資でお金を増やす話を期待すると、少し方向が違います。

持ち帰るのは、手法ではなく考え方の芯

それから、「これは西野氏だからできるのでは」という批判もあります。巨大なサロンと知名度という土台があってこそ、という指摘はもっともです。熱量の高いファンづくりが「信者ビジネス」と評されることもあります。だから私は、手法をそっくり真似するより、「意味・信用・応援がお金になる」という“考え方の芯”を持ち帰るのが現実的だと思っています。

工房の作業台に並ぶ手作りの陶器のカップやたたんだリネンの布と、それぞれに糸で結ばれた無地の下げ札、傍らの小さな天秤 — 自分の仕事の値段をどうつけるかを考える場面

自分の値段を、どうつけるか

独立してフリーランスになってから、いちばん悩ましかったのが「自分の料金をどう決めるか」でした。相場がわからないときは、まず調べて、自分なりの落とし所をつけてから交渉する。お金の話は切り出しにくいものですが、いきなり希望額を言うのではなく、一般的な相場感から入って、相手に納得してもらってから進めると、案外スムーズにいきました。

それに、経験が浅いうちは、多少安くしてでも場数を踏んで実力を上げるほうが、結局は近道だと感じます。値付けは、自分の価値を言葉にする練習でもあるのだと思います。何を無料にするかから値段を考える方法は、『フリー』クリス・アンダーソン氏の書評で整理しました。

売る側にいたときのことも、いま思えば同じ話でした。高額なバッグを買われるお客様は、経営者だったりインフルエンサーのような方が多く、買うときもほぼ即決です。おそらく、それに資産価値があるのをご存知で、値崩れしないことも知っているから、その場で決められるのだと思います。ギフトとして選ばれることもありますが、いずれにしろ、資産をたくさんお持ちで、数百万円程度では自分の資産に大して影響が出ない。そういう方が主に買われていました。値段が下がらないという前提があるから、価格そのものは判断の障害にならないわけです。

反対に、自分が売る側に回って値付けを外したこともあります。ハンドメイドで焚き火台を制作して、オンラインで販売したときのことです。原価より少しプラスになればいいと思い、数千円の利益だけを乗せて出しました。ところが、実際に作るまでの工程や材料費などを含めて計算し直すと、ほとんどペイしていない。手を動かした時間が、まるごと価格から抜け落ちていました。

このとき、しっかり利益の取れる構造を作ることが何よりも大事だと思いました。売れるかどうかより先に、続けられるかどうか。西野氏が値付けを商品の話ではなく設計の話として扱うのは、たぶんこういうことなのだと思います。

今日からできる一歩

  • 自分の仕事や個人プロジェクトに、「手頃な入口」と「少し高い本命」の二段を用意してみる。
  • 値段を「機能」ではなく「意味・体験・応援」で説明できるか、一度書き出してみる。
  • お金の話を、相場感という“共通言語”から切り出す練習をしてみる。

おわりに

お金の話を避けることは、やさしさのようでいて、夢を守れなくします。『夢と金』は、そのことを現場の言葉で教えてくれる一冊です。手法の派手さに引っぱられず、「好きなことを続けるために、お金をどう設計するか」という問いだけは、しっかり持ち帰りたいところです。

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